2023年、上位にランクインした投資信託とは

1月20日に「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2023」の結果発表・表彰式が東京・渋谷の東京カルチャーカルチャーで開催されました。このアワードは「投資家が自分たちの手でより良い投資環境を作っていこう」という趣旨で発足したもので、2007年から開催されています。2023年の結果は以下の通りになりました(※)。

1位:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
2位:<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド
3位:eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
4位:バンガード・ トータル・ワールド・ストックETF[VT](ベンチマーク:FTSE グローバル・オールキャップ・インデックス)
5位:eMAXIS Slim 全世界株式(除く日本)
6位:eMAXIS Slim 先進国株式インデックス
7位:結い 2101
8位:たわらノーロード 先進国株式
9位:eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
10位:ひふみ投信

1位から4位までは2022年と同じ順位で、それらはインデックスファンドの中でも、継続的に運用管理費用(信託報酬)を引き下げてきた実績が評価されているようです。上位は低コストのインデックスファンドが多くを占めますが、投資哲学などが個人に支持されるアクティブ投信も一部ランクインしています。

人気の高い商品から順番に買えば良いわけではない

このようなアワードの結果が公表されると「上位から順番に投資信託を買っていけば良いのか?」といった質問を受けることがありますが、答えはNOです。

結論としては、個人がそれぞれ自分の運用スタイルに応じて選択する、ということになるでしょう。インデックス投信の場合、どの指数に連動する商品を選ぶかによって投資する先(範囲)は異なります。

例えば、1本で全世界の株式にまとめて投資したい人は全世界株式型のインデックスファンドに連動する投資信託を選ぶ、ということになります。

一方で、日本株のカテゴリー(資産クラス)について、自分で個別株を買いたいのでインデックス投信は日本を除く先進国に投資したいといった場合は、世界株式(日本除く)や先進国株式(日本除く)といった指数に連動するインデックスファンドが有力な選択肢になります。同じ範囲に投資するものを複数持つ必要はないでしょう。

長期保有が資産形成を成功に導くカギ

そして、もう1つ押さえておきたいポイントは、長期の資産形成で成功するには、自分に合った良い投資信託を選ぶことに加え、良い投資行動を伴う必要がある、ということです。

米国で投資信託の評価を行うモーニングスターという企業では、「Mind the Gap(ギャップを埋めろ)」と題する調査レポートを毎年公表しています。ここで言うギャップとは、投資信託そのもののリターン(トータル・リターン)と投資信託を保有する投資家の平均的なリターン(インベスター・リターン)の差を意味します。

投資信託にはいくつかのリターンがあります。1つ目は投資信託そのものの成績を評価するときに使う「トータル・リターン」です。例えば1年、3年、10年というように過去のある一定期間を通して、その投資信託が何パーセントで運用できたかを示したものです。「この投資信託は成績が良い・悪い」という判断に使われるのがこのトータル・リターンです。

2つ目は「インベスター・リターン」です。これは投資信託を保有する投資家のリターンのことで、その投資信託を購入した人たちが実際にどれだけの利益を上げたのか(あるいは損をしたのか)を保有者全体の平均値として推計したものです。

ある投資信託を購入して、追加で購入したり解約したりすることなく、一定期間保有し続けた場合、インベスター・リターンとトータル・リターンは同じになります。ただ、実際には追加で購入したり、一部解約したりすることもあるので、両者のリターンには差(ギャップ)が生じます。なかでも問題なのは、投資信託自体は良い成績なのに、保有する投資家がそのリターンを享受できていない(トータル・リターン>インベスター・リターン)場合です。

下記2点は日本株に投資する投資信託のトータル・リターンとインベスター・リターンを示したものです(10年・年率)。

A投信
トータル・リターン:10.14% インベスター・リターン:7.15% 差:▲2.99%
B投信
トータル・リターン:10.06% インベスター・リターン:10.61% 差:+0.55%


A投信のリターンは10.14%と高いのですが、投資家の平均的なリターンは7.15%と約3%低くなっています(約3%のマイナスのギャップがあります)。その一方、B投信のリターンは10.06%ですが、投資家のリターンは10.61%とギャップはわずかにプラスです。

ウエルスアドバイザー(旧モーニングスター)のサイトでは商品ごとのインベスター・リターンを確認することができますが、商品によってかなりの差があります。

一般に販売されている投資信託の場合、投資家の行動や販売姿勢に影響を受けるため、ギャップは大きくなりがちです。例えば、投信の基準価額が上がったところでたくさんの投資家が購入し、その後価格が下落したところで多くの人が解約してしまえば、投資信託のリターンに比べてインベスター・リターンは低くなります。これに対して、企業型確定拠出年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、投資信託を継続的に積み立てていけるしくみを利用すると、ギャップは小さくなる傾向があります。

忍耐強い投資家であれ

長期で資産を育てていくには、きちんと調べて自分にとって良い投資信託を選ぶことも大事ですが、1人ひとりの投資行動もそれ以上に大事なのです。そのためには、判断を誤りがちな売買タイミングに頼るよりも、長期にわたって積み立てを継続していくことも選択肢の1つです。

NISAは2024年から制度が恒久化され、非課税期間も無期限化され、長期投資がしやすくなりました。ただ、売っても翌年に非課税投資枠が復活するため、短期的な利益確定などの売りを招くのではないか、と少々心配もしています。上場株式や投資信託などを購入したら長期で保有する、忍耐強い投資家を目指したいものです。

(※)https://www.fundoftheyear.jp/2023/