新冷戦構造の追い風を受ける米国のLNG(天然ガス)輸出
米国は世界最大の石油・天然ガスの貿易量に
かつて米国は石油消費の約6割を国外からの輸入に依存していたが、2000年代のシェール革命によって原油と天然ガスの増産が進み、2015年に本土からの輸出が解禁されると、2020年には純輸出国に転じた。
JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)のサイトで2023年8月に公開されたレポート「米国:世界最大の石油・ガス貿易国 -輸出と域内貿易にシフト-」によると、2023年5月時点の原油及び石油製品輸入量は日量855万バレルに対して、輸出量は日量965万バレル、LNGを含む天然ガス輸入量は216bcf(0.59bcf/d)、また輸出量は634bcf(20bcf/d)となっており、世界最大の石油・天然ガスの貿易量を誇っているという。
とりわけ、天然ガスに関しては安価であるため石炭からの代替としての利用が進み、2022年時点のStatistical Review統計(2023年、旧BP統計)によれば、パイプラインで2,900bcfを輸入する一方で、パイプライン及びLNGであわせて6,600bcfを輸出しており、ロシアや中国を上回る天然ガスの輸出入量となっている。
欧州は脱ロシア依存を狙い米国からの輸入を増加
原油の輸出先別の上位国は、2022年の統計では、韓国が日量37万バレルでトップ、次にオランダ、イギリス、カナダ、インド、シンガポール、中国、台湾と続く。ロシアのウクライナ侵攻に起因する制裁により、ロシア産原油の輸出先が欧州からインドや中国に変化したことから、2021年に比べると米国産は欧州に向かう一方、アジア向けが減少している。
天然ガスについても同様のシフトが見られる。上記は2021年と2022年の米国産天然ガスの輸出先を比較したものである。こちらもロシア産ガスの減少分を補填する形で、フランス、英国、スペイン、オランダといった欧州諸国向けが急増している。一方で、2021年には韓国と並びトップだった中国向けは2022年に急低下している。
1月6日付けの日本経済新聞の記事「米LNG輸出、脱ロシア需要で初の首位 九電は出資検討」は、米国のLNG(天然ガス)輸出が2023年、初めて国別で世界首位となったことを報じている。欧州がエネルギーの脱ロシア依存を狙って米国からの輸入を大きく増やしたためである。日本勢も官民で米国からの調達拡大を狙っており、「シェール革命」とウクライナ危機がエネルギー勢力図に地殻変動を引き起こしたと指摘している。
エネルギーセクターにおいて活発化している大型M&A
業界最大手のエクソン・モービル[XOM]らが買収発表
シェール開発を手がける米チェサピーク・エナジー[CHK]は1月11日、同業のサウスウェスタン・エナジー[SWN]を74億ドルで買収すると発表した。4-6月期に株式交換でサウスウエスタンを傘下に収める計画だ。合併によりシェールガスの生産量は業界トップのイーキューティー[EQT]を抜いて最大手になる見込みである。
1月12日付けの日本経済新聞の記事「米チェサピーク、シェール同業を1兆円で買収 ガス最大手に」によると、東部ペンシルベニア州や南部テキサス州などでの天然ガス生産量は日量79億立方フィートになり、LNG(天然ガス)に換算すると年5800万トン程度。日本の輸入量の約9割に相当するという。
米国ではエネルギーセクターにおける業界再編が急速に進んでいる。2023年10月には、業界最大手のエクソン・モービル[XOM]がパイオニア・ナチュラル・リソーシズ[PXD]を600億ドルで買収することを発表した。また、シェブロン[CVX]は530億ドルでヘス[HES]を、オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]は約120億ドルでクラウンロックを買収する。
以下は金融情報アプリを手がけるQuartrが、2023年発表の大型M&Aを規模順にまとめたものである。他のセクターを大きく上回る大型のM&A がエネルギーセクターで展開されていることが分かるだろう。
底堅い石油需要、収益強化をにらんで大型M&Aが相次ぐ
背景にあるのは、化石燃料に対する根強い需要だ。時事通信の2023年11月19日付けの記事「米石油業界、相次ぐ大型買収=底堅い需要、脱炭素曲がり角」は、米石油業界において収益強化をにらんだ大型M&Aが相次ぎ、脱炭素の取り組みが曲がり角を迎えていると指摘している。
新興国の経済成長などを背景とした底堅い石油需要を見込み、大型投資が活発化している。日米欧などが2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を掲げる中、太陽光など再生可能エネルギーの導入促進だけでは、需要を賄い切れないと見込んでいる格好だ。英調査会社ウッドマッケンジーの「買収は石油需要への強気の見方を示している」とのコメントも紹介している。
バフェットの逆張り投資、エネルギーセクターの投資を積み増し
バフェットによるオクシデンタル・ペトロリアム[OXY]の保有株比率が34%まで上昇
こうした状況の中、ウォーレン・バフェット氏がエネルギーセクターへの投資を積み増している。バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が1月10日にSEC(米証券取引委員会)に提出した資料によるとオクシデンタルの保有株比率は34%まで高まったことが分かった。
バフェット氏は2022年初頭からオクシデンタルの株を集め始めたが、今回提出された資料によると、2023年12月末に株式を追加購入し、保有株数は約3億2757万株となった。
2023年9月末時点でバークシャーが保有する上場株式を見てみると、保有割合の上位(評価額順)はアップル[AAPL]、バンク・オブ・アメリカ[BAC]、アメリカン・エキスプレス[AXP]、コカコーラ[KO]とお馴染みの顔ぶれとなっている。オクシデンタルについては、2023年9月末時点でシェブロンに次ぐ保有割合であるが、12月末時点では順位に変化が出ている可能性がありそうだ。
バフェット氏は2023年5月6日に開催されたバークシャーの年次株主総会において、オクシデンタルの経営陣と事業を高く評価しているものの、全てを買収する計画はないと述べていたが、すでに3分の1を超える水準にまで買い進んでいる。
バフェットは「米国が石油脱却へと近づいているとは思えない」と発言も
5月6日付けのウォール・ストリート・ジャーナルの記事「バフェット氏が石油株に巨額投資 なぜ?石油株で大やけどした伝説の投資家バフェット氏、心変わりの理由とは」によると、過去(2008年と2014年)に石油大手への巨額投資で立て続けに大きな損失を出したバフェット氏が、エネルギー株へのアロケーションを高めている理由について、炭素排出量の削減に向けて野心的な目標を掲げる企業が増える中でも、世界は今後も大量の石油を必要とし続けるとバフェット氏が確信しているからだと指摘している。
バフェット氏自身も2022年、米国が石油脱却へと近づいているとは思えないと述べている。また、技術の進化により生産性が向上し、石油企業の多くは、原油相場が現在の水準を大きく割り込んでも、利益を確保できると語っている。例えば、オクシデンタルは原油がバレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できるという。
バークシャーは2023年、FERC(米連邦エネルギー規制委員会)からオクシデンタルの普通株式を最大50%取得することを認められている。米国屈指の石油、シェールガス生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行なっていることなど、バフェット氏が投資先に求める要素の多くをオクシデンタルは満たしている会社だ。
バフェットは市場が総悲観でも買い向かえる唯一の投資家
アップル株と石油株の両建てで、金利に左右されない運用が可能
ウクライナ情勢、米中対立、米国の政治的分断、中東情勢の緊迫化など、戦争の拡大とインフレの再燃が不安視されている。米国の物価高騰はいったん峠を越えた。しかし、バフェット氏がエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景には、「インフレはそう簡単には収まらない」という歴史観があるのかもしれない。
今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェットにとっては有利であり、一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株有利となる。アップルを持っているバフェットにとっては大きなプラスだ。
要は、アップル株と石油株の両建てで、これから金利が上がろうが下がろうが、何とかなるような運用になっているのである。その一方で、相場の大暴落が起きるようなことも想定し、それに対する備えとして1500億ドルを超える現金も抱えている。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっているときに買い向かうことができる唯一の投資家がバフェットである。
バフェットの投資の神髄がわかるのは大統領選挙後か
バフェットは金融危機時に金融機関に投資を行い大成功した。2008年の世界金融危機(リーマンショック)の際、ゴールドマン・サックス[GS]に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ[BAC]は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェットから資本注入を受けた。
バフェットの投資の神髄がわかるのは、金利上昇期や相場が大暴落したときである。次の金融危機の局面で、またしてもバフェットは規格外の安値で金融株や優良株を手に入れることになるのだろうか。米民主党は2024年11月の大統領選挙までは相場の暴落を回避しようとするだろう。したがって、本格的な金融危機や金融システムの崩壊はまだ先である。崩壊の始まりは「利下げ」となるだろう。