◆先月ポール・マッカトニーの来日公演が中止になって残念な思いをしたひとも多いだろう。昨年来日した時の若々しい姿と歌声からは想像もつかないが、彼はもう70歳を超えているのだ。長旅で体調を崩したとしても無理はない。それにしても70歳を超えてなお、あのパフォーマンスは驚くばかりだ。同じことはローリング・ストーンズにも言える。2月の東京ドームで見たミック・ジャガーの細身のルックス、身のこなし。彼もまた70歳である。
◆しかし、ポールもミックも、キング・オブ・ポップスことマイケル・ジャクソンには敵わない。DJクリス・ペプラーのナビゲートで、東京で今最もヒットしている100曲をカウントダウンするJ-WAVE「TOKIO HOT100」、先週の1位はマイケル・ジャクソンの新曲「Love Never Felt So Good」。4週連続の1位獲得である。ポールもミックも70歳を超えての活躍は素晴らしいが、マイケルは死んでいるのだ。死してなお、新曲をリリースし世界的な大ヒットを放つ。
◆生前の未公開音源があるからこそ、こうしたことができる。関係者によるとあと8枚分のアルバムをリリースできるだけの音源があるという。新アルバムの発売直後に行われたイベントでは、マイケルがホログラムとなってステージに登場し、ダンサーと踊るパフォーマンスも披露した。死んだ者さえ壇上に引っ張り出して踊らせて、楽曲を売ろうという商魂の逞しさ。つくづく、ひとは一度つかんだ「カネのなる木」を放さないものだと思う。これも言ってみれば、既に手に入れた利権、一種の既得権益である。
◆アベノミクス第3の矢、成長戦略の骨格が出そろった。農業、医療、雇用等、代表的な岩盤規制の分野でとりあえず最初の風穴を開けることはできた。しかし、岩盤を切り崩すまでには至っていない。既得権益を守りたいひとたちの抵抗は並大抵ではないだろう。根気強く取り組んでいくほかはあるまい。
◆Love Never Felt So Good ‐ 意味は逆説的に「愛がこんなに素晴らしいなんて」。でも待てよ、マイケルは死んでいるのだ。死んで初めて愛の素晴らしさに気付いたかもしれず、生前は直訳の通り、「愛がそんなに素晴らしいとは一度も感じたことはなかった」かもしれない。Love Never Felt So Good ‐ 「現実はそんなに甘いものではない」。成長戦略の進展に向けた、マイケル・ジャクソン、あの世からのご託宣に聞こえる。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆