株高では円安に寛容になる可能性
米ドル/円が一時148円以上に上昇したことで、2023年12月末時点で119.78円の5年MAを23%以上上回ってきた(図表1参照)。2022年6月、財務省、日銀、金融庁の三者会合は135円に米ドル高・円安が迫る中で円安懸念の共同声明を発表した。これが示すように、米ドル高・円安が過去5年の平均値から2割を大きく超えて広がり始めると、通貨当局は「行き過ぎた円安」への懸念を強めけん制に動き出す傾向が見られた。その意味では、最近にかけて通貨当局内で円安への懸念が再燃している可能性はあるのではないか。
そもそも、5年MAから±2割以上かい離した動きに対しては、けん制にとどまらず、実際に為替介入に動くことも多かった。1990年以降、米ドル/円が5年MAを2割以上上回ったケースは4回、一方で下回ったケースは2回あったが、以上6回のうち4回は為替介入が行われていた。
6回のうち2回は為替介入が行われなかったわけだが、具体的には2015年と2023年だった。この2回に共通したのは株高局面での円安だったことだ。特に2015年の場合は、「アベノミクス円安」と呼ばれた局面だっただけに、円安は株高とほぼ連動して展開したことから、通貨当局においても円安が終了する寸前まで「悪い円安」との指摘はほとんどなかった。
これに対して、まだ記憶に新しい2023年のケースにおいては通貨当局から円安をけん制する動きが続いたものの、結果的には2年連続で150円を超える円安となった動きに対して、前年と異なり最後まで為替介入は行われなかった。なぜ、2年連続でほぼ同じ水準まで進んだ円安に対する為替介入の対応が異なったのか。
それを説明できる可能性があるのも株価の局面の違いだった。2022年の場合、円安が広がる中で株価は下落に向かったのに対し、2023年は円安が広がる中でも株価は高値圏での推移が続いていた(図表2参照)。以上から、株高局面では通貨当局も円安に対して寛容になる可能性があるのかもしれない。