3つの主力事業でグローバルスタンダードを築く有力企業

ノードソン[NDSN]は米国オハイオ州を拠点とする、接着やコーティング装置のグローバルメーカーです。接着剤、コーティング剤、ポリマー、シーラント、バイオマテリアル、その他液体などを塗布・処理するための製品を設計・製造・販売しています。また、電子部品の試験および検査に使用される機器やUV硬化処理やプラズマ表面処理に使用する製品、さらにはカテーテルなどの医療機器向けの塗布ソリューションも提供しています。

創業は1954年ですが、そのルーツは1909年設立の自動車産業向けスクリュー機械部品販売会社US Automatic Companyに遡ります。当初は低価格の大量生産品を主力としていましたが、第2次世界大戦中に米軍支援のため高精度部品に生産をシフトさせ、高精度部品の研究開発に注力。その後1954年に、塗料やその他のコーティング材料を吹き付ける「ホットエアレス」方法に関する特許を取得しました。

これを機に同社はUS Automatic Corporationの1部門として、エアレススプレー装置の製造と販売を開始しました。今や同社の接着剤・液剤塗布システムはグローバルスタンダードとして世界中で多くの企業に導入され、精密ディスペンシング機でトップクラスのシェアを獲得しています。

なお製品は、米国、中国、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリア、メキシコ、オランダ、英国に所有する製造施設で生産され、35ヶ国以上に設置する営業拠点を通じて販売されています。

販売先は世界各国に渡り、2023年度(2022年11月~2023年10月)には売上(約26億ドル)の66%が米国外で生み出されました。報告セグメントは、(1)産業用精密ソリューション、(2)医療および流体ソリューション、(3)先端技術ソリューションの3つになります。

主力は(1)業用精密ソリューションで、2023年度には売上の53%を構成しました。この事業セグメントでは、ディスペンシング(塗布)および材料加工技術に加え、測定、検査、制御ソリューションをさまざまな産業分野に提供しています。

製品には、液体仕上げや粉体コーティング用の自動または手動塗布装置や、硬化・乾燥作業に使用される紫外線装置など、また製造プロセスの分析とモニタリングに使われるインライン測定センサーや不織布用ディスペンス装置、ポリマー加工装置、農業用噴霧ソリューションなどがあります。

(2)の医療および流体ソリューションでは、カテーテルや医療用バルーンなどの医療機器向け塗布ソリューションの他、使い捨てプラスチック成型シリンジや液体接続コンポーネントなど液体管理ソリューションを展開しています(売上構成比は25%)。

(3)先進技術ソリューションは、主にエレクトロニクス業界をターゲットとし、保護剤やコーティング液を塗布するための自動ディスペンスシステムや塗布前の洗浄と調整のためのガスプラズマ処理システム、またテストと検査システムを提供しています(売上構成比は23%)。

バランスが効いた事業基盤とストック型ビジネスモデルで安定性高い収益基盤を実現

「塗布」「コーティング」は、全ての生産物に施される製造プロセスであることから、同社の顧客は工業用から食品・飲料、医療に至るまで30以上の主要産業にわたっています。

エンドマーケットを大きく5つに分け、各々の売上構成比を見ても、大きく1つに偏っていることはなく(エレクトロニクス30%、消費財23%、医療機器消耗品21%、工業15%、その他12%)、同時に単一の顧客が売上の10%以上を占めることもありません。

それぞれの産業分野で使われる機器の範囲は、使い捨てコンポーネントから、少量作業用の手動のもの、高速大量生産ライン用のマイクロプロセッサベースの自動システムまで多岐にわたり、「塗布」周りのことならお任せあれ、という製品ラインナップとなっています。

また、同社の「塗布」という製造プロセスをターゲットとしたビジネスでは、装置・機器販売と同様に部品や消耗品による売上も大きくなります。実際のところ、同社においては、部品・消耗品売上と装置・機器売上による構成比が50%ずつとなっていることも1つのポイントです。

同社の収益基盤は、多様な産業分野、多様な地域に渡る、かなりバランスの効いた安定性の高いものとなっていますが、部品・消耗品売上というストック型の収益基盤が存在していることで、さらに利益の安定性が高まっています。

「50%のオーガニック成長と50%の買収による成長」で堅実成長を持続

このような安定性高い収益構造から、成熟市場にありながらも売上は毎年3~5%のオーガニック成長を遂げることができています。オーガニック成長とは、買収による押し上げ効果を除いた成長率を指します。高成長ではないにしろ、堅調な業績推移を維持できていることがポイントです。そして堅調な業績を維持するため、同社はしばしば買収によって製品ラインナップの拡充や周辺市場への参入、地域的拡大を行うことで事業規模を拡大してきました。

最近で言うと、2023年8月にイタリアに本社を置くARAGグループを買収しました。ARAGは、農業用散布用の精密制御システムおよびスマート流体コンポーネントの世界的企業で、世界7ヶ所の製造・流通拠点と80ヶ国以上の販売ネットワークを有します。この買収により同社の精密ディスペンシング製品が拡大・強化され、成長する精密農業マーケットへの進出が加速しました。

ARAGは産業用精密ソリューション部門の1部門として運営されています。ARAGの2023年度推定EBITDA利益率は37%であり、同社の利益水準を押し上げる可能性があります。またこれに先立ち、2022年11月にも高精度3Dセンシング技術を提供するCyberOpticsを買収し、半導体のテストおよび検査機能を拡大しています。

この戦略は今後も継続される見込みです。その理由は、2025年10月期までの中期経営計画「Ascend戦略」において「50%のオーガニック成長と50%の買収による成長」を中期成長戦略としているからです。

同社が2025年度に達成を目指すのは、年間売上高30億ドルとEBITDA利益率30%です。ちなみに2023年度業績では、この中期売上高目標の80%まで進捗し、利益率については31%で目標を達成しています。なお、2023年度における買収による効果は6.9%でした。同社の粗利益率は50%を超えて推移しており、業界でも高い水準にあります(業種36%)。

【図表1】ノードソン年間配当推移(1992年~2023年)
出所:Bloombergより筆者作成
【図表2】NDSNとS&P500の株価推移比較
出所:Bloombergより筆者作成
※ BMI株価は1984年7月20日を1とした数値