◆今年初めに亡くなった歌手・やしきたかじんさんの代表曲に『大阪恋物語』がある。夢を追いかけるあなたを待てない、あと5年早く出会えていたら...。「この世でただひとりだけ魂で愛せたひと」の思い出を胸に、女は別れを決意する。

◆相場の世界でも夢を追いかける企業を待つのは難しくなっている。創業間もない企業はシェアの拡大などトップライン(売上)を優先するべきだ、ボトムライン(利益)は後からついてくる - そんな理想が許された鷹揚な時代がかつてあった。インターネットやゲーム、バイオなど新興企業の株価は足元の利益からは説明できない水準まで上昇した。しかし、今年になると一転、それらのいわゆるモメンタム株は激しく売られ大幅な株価調整を余儀なくされた。

◆これもショートターミズム(短期志向)という言葉に代表される投資行動の一面であろう。本来長期的なリターンを目指すべき企業や投資家が、短期的な利益を追求する行動をショートターミズムという。資本市場の不安定さを招く一因となったとして、近年ショートターミズム是正に向けた各国の取り組みが加速している。わが国でも「日本版スチュワードシップ・コード」の適用が議論されているが、まさにショートターミズムを是正するひとつの仕組みとして効果が期待されている。

◆『大阪恋物語』の主人公が恋を諦めたのは年齢のせいである。自分の歳を考えたら女は、夢を追う男を待てない。一方、個人投資家はいくらでも待てる。機関投資家と違って決算というものがない個人は、投資ホライズン(期間)を柔軟に設定することができるからだ。僕は著書『9割の負け組から脱出する投資の思考法』最終章で、高樹のぶ子の「恋愛は必ず時間に敗れる」という言葉を引用した。時間に敗れた貴女へ。相場ならいくらでも夢を追うことができる。夢を追う企業の成功を待つことができる。失った恋のリベンジをしませんか(今度こそ歳を気にせずに)。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆