◆先日、JR九州の新規上場承認をきっかけに、あるメディアの記者から民営化企業についての取材を受けた。東証の時価総額ランク上位には、NTTグループ、JT、日本郵政グループなどが並ぶ。ランクは少し下がるがJR東日本やJR東海も民営化企業だ。その若い記者に、「これら昔の三公社五現業は...」と言ったら「???」という顔をされてしまった。

◆最近は、「あれ、ほら、あれ」などと、ひとやものの名前がすぐに出てこない。新聞の小さな文字が読めない。だが、自分が歳をとったと感じるのは、そういう時ではない。世代の異なるひとに話が通じない時だ。映画「君の名は。」が空前の大ヒットとなっているが、昔の「君の名は」も大人気だった。なんたって、ラジオドラマが始まると銭湯の女湯がガラガラになったのだから...って、さすがにそのエピソードは語らない。僕が生まれる10年以上も前の話だ。

◆邦画では『シン・ゴジラ』も好調だった。『シン・ゴジラ』『君の名は。』のダブル・ヒットで東宝の株価は年初来高値を更新した。これら2本の映画に共通するのは<災害>が物語の背景にあることである。もうひとつの共通点は、<焼き直し>だろう。ゴジラはいうまでもないが、「君の名は。『も往年のラジオドラマのタイトルそのままである。内容はまったく異なるが、男女の出逢いとすれ違いを描くというのも同じだ。

◆そうした超メジャーな作品の対極にある、超マイナーな映画も観ている。『ラスト・タンゴ』と『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』。前者はアルゼンチンタンゴの伝説的ペア、マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペスを描いた作品で、後者はフラメンコに革命を起こした伝説のギタリスト、パコ・デ・ルシアの生涯を描いたもの。ともにドキュメンタリー映画だ。(詳しくはこちら)これらにしても昔の偉大なアーティストをそのまま映画にしたものだ。ドキュメンタリー映画とはリアルな人生の<焼き直し>である。

◆<焼き直し>ばかりが目立つ風潮は、「ゼロから有を生む」という創造がいかに難しいかということの証である。無論、<焼き直し>を否定するものではない。昔にオリジナルがあったものが、形や装いを新たに変えて現在に甦る。広い意味の「リバイバル」といえるだろう。企業も同じである。昔の国営企業が民営化され、いまや東京市場を代表する大企業となっている。但し、「形や装いを新たに変えた」だけでは困る。古い官営体質が経営や業務の至るところに残ってはいまいか。それをチェックするのも市場と投資家の役目である。

◆「古い官営体質」の箇所を、「親方日の丸」なんて書こうとして、慌ててやめた。万が一、若い読者に通じないと笑われるからだ。「親方日の丸」なんて言葉はもう死語だろう。その一方、株式市場では日銀のETF買いが進み、実質的な「官」の株式保有比率が増えている。これも別の意味で「親方日の丸」の復活かもしれない。こんなリバイバルは要らない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆