◆昨日の日曜日は東京ジャズフェスティバルの最終日。東京国際フォーラムの昼の部(つまりマチネ)を聴きに行った。僕のお目当ては渡辺香津美と沖仁のギターセッション。これでも僕はギタリストの端くれである。腕前は伴わないが、キャリアだけは長い。そんな僕が夢中になった小説がある。平野啓一郎『マチネの終わりに』。天才ギタリストと海外通信社で働く女性記者の恋愛を描いた小説だ。

◆意味深長な台詞が満載である。例えば主人公が「未来は常に過去を変えている」と話す場面。

<最初に提示された主題の行方を最後まで見届けた時、振り返ってそこに、どんな風景が広がっているのか?(中略)展開を通じて、そうか、あの主題にはこんなポテンシャルがあったのかと気がつく。そうすると、もうそのテーマは、最初と同じようには聞こえない。花の姿を知らないまま眺めた蕾は、知ってからは、振り返った記憶の中で、もう同じ蕾じゃない。音楽は、未来に向かって一直線に前進するだけじゃなくて、絶えずこんなふうに、過去に向かっても広がっていく。>

◆今月下旬に開かれる会合で日銀はこれまでの金融政策について「総括的な検証」を行う。そのうえでマイナス金利の深堀りを決定すると僕は予想している。一方で国債購入については柔軟なスタンスに変更するだろう。日銀はこれまでのようなペースで国債を買わないかもしれない。市場はすでにその思惑で動いている。長期債は売られ金利は上昇している。しかしマイナス金利は撤廃どころか更に推し進めるとあっては短期金利は上がりようがない。よって国債のイールドカーブはスティープ化(傾斜が立つこと)している。イールドカーブが立つということは長短スプレッドが生まれ金融機関は利ザヤが稼げる。こういう状況になればマイナス金利の深堀りで銀行株が売られることはないだろう。

◆最初に提示されたときにはさんざんの評判だったマイナス金利政策も、展開次第ではこんなポテンシャルがあったと気がつく。「マチネ」の主人公・蒔野は言う。<人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える>

◆本の帯にはこんな宣伝文句がある。「結婚した相手は、人生最愛の人ですか?ただ愛する人と一緒にいたかった。なぜ別れなければならなかったのか。恋の仕方を忘れた大人に贈る恋愛小説」 既婚者も独身者も、恋愛中の若者にも、恋の仕方を忘れた大人にも、多くのひとにお勧めしたい作品である。