クラウド事業はデジタル社会の推進に大きく寄与する重要インフラ

エヌビディア[NVDA]のCEOがAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のイベントに登場

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は11月27日、米ラスベガスにおいて年次イベント「re:Invent 2023」を開催した。ご承知の通り、アマゾン・ドットコム[AMZN]が展開するAWSは世界最大のクラウド・コンピューティング事業である。

今回のイベントでは生成AI(人工知能)ブームを反映し、マイクロソフトの生成AIツール「コパイロット(Copilot)」の業務用バージョンのような「アマゾンQ」という独自のチャットボットが発表された。

今から1年前、生成AIチャットボットの「チャットGPT」が公開されて以降、AI技術に関してはクラウド事業で最大のライバルであるマイクロソフト[MSFT]が先行し、AWSはマイクロソフトの後塵を排していると思われてきた。そんな中、AWSのイベントに米半導体大手エヌビディア[NVDA]のジェンスン・フアンCEOが登場した。

ウォール・ストリート・ジャーナルの11月30日付けの記事「アマゾンとエヌビディア、切っても切れない関係」によると、フアン氏はAWSのアダム・セリプスキーCEOと共に登壇し、両社の「提携関係の拡大」を明らかにした。エヌビディアは2024年、「スーパーチップ」とも呼ばれる高性能GPU「H200」の出荷を開始するが、AWSはこれを使ったサービスを提供する最初のクラウド企業になると言う。

テック企業の幹部が互いの製品発表会を訪れることは珍しいことではないようだが、エヌビディアのデータセンター事業の主要顧客となるAWSの年次会合にジェンスン・フアン氏が登場したのは初めてのことだ。加えて、アマゾンが自前のAI半導体の設計を進める中、両社の摩擦が強まっているとの臆測が流れているタイミングでもあったことから驚きを持って受け止められた、と記事では伝えている。

市場調査会社デローログループの推計によると、過去4年間のアマゾンの設備投資はマイクロソフトの2倍以上に及ぶ。また、データセンター部門の2022年の設備投資は290億ドル(約4兆2700億円)で、マイクロソフトを39%上回っている。エヌビディアにとっては最大の顧客に対する配慮もあっただろう。

2025年にはパブリッククラウドへの企業投資が従来のITへの支出を追い越すと予想

世界のIT投資をけん引しているのがクラウド事業だ。シンガポールに本拠を置く調査会社のCanalysが8月10日に発表した2023年第2四半期の世界のクラウドインフラストラクチャサービス支出額は、16%増の724億ドルだった。

シェアを見ると、AWSが30%、Microsoft Azureが26%、Google Cloudが9%と、トップ3ベンダーで総支出の65%を占めた。Canalysは今後、Microsoft Azureが提供するAzure OpenAI Serviceの伸びが加速しており、高い成長率が期待されると分析している。

【図表1】クラウドサービスを手がける企業の世界シェア(2023年第2四半期時点)
出所:Canalysのデータより筆者作成

クラウド事業はデジタル化の推進に大きく寄与する社会の重要インフラであり、成長は他のIT事業の成長を大きく上回っている。

調査会社のガートナーは、アプリケーションソフトウェア、インフラソフトウェア、ビジネスプロセスサービス、システムインフラ市場のうち、クラウドに移行可能なカテゴリを対象とした調査で、2025年にはパブリッククラウドへの企業投資が、従来のITへの支出を追い越すと予想している。

【図表2】企業によるクラウドへの投資
出所:ガートナーの資料より筆者作成

2023年5月に台湾の市場調査会社TrendForceが発表した予測によると、AI(人工知能)需要の高まりを受け、ディープラーニング向けに膨大な量のデータを処理するAIサーバーの出荷台数が今年(2023年)、前年比38.4%増と大幅に増える見通しだ。また、AIサーバーは2023年にサーバーの総出荷台数の約9%を占めるが、2026年にはこの割合が15%にまで高まると見られる。2022年から2026年までのAIサーバー出荷台数の年平均成長率(CAGR)は22%になると予測している。

【図表3】AIサーバーの出荷台数(2022~2026年)
出所:TrendForceのデータより筆者作成

エヌビディアの中国向けを補うのはどの地域か

エヌビディアの高性能GPUは国際的な「争奪戦」に

現在AIサーバー向けの半導体で支配的な存在となっているのがエヌビディアのGPU(画像処理半導体)で、その市場シェアは70%とも80%とも言われている。

ITビジネスの情報サイト、週刊BCNの9月18日付けの記事「需要が過熱するNVIDIA GPU 国内にも押し寄せる『AI用ITインフラ』の波」によると、ChatGPTに代表される生成AIが注目を集めるようになった2022年来、AIモデルの構築に欠かせないGPUの需要が急速に高まっている。とりわけエヌビディアの高性能製品は供給が追いつかない状況が続いており、先進企業やクラウド事業者の間で国際的な「争奪戦」が繰り広げられている。

生成AIブームによって、データセンターの主役はこれまでとは大きく異なるGPUを搭載したサーバーに取って代わっている。GPUサーバーが登場した当初は、既存のゲーム用のGPUを転用していたが、今やAI専用に設計製造された巨大GPUが使われている。このAI専用のGPUであるA100およびH100の収益性は非常に高いため、エヌビディアの業績が急拡大している。

ディープラーニングの技術自体は新しいものではない。大部分のコンセプトは10年以上も前に提唱されていた。それがここに来て開花したのにはいくつか理由がある。ひとつは、従来からあるニューラルネットワークをうまく組み合わせることができるようになり、アルゴリズムの性能が飛躍的に上がったことである。

それに加え、クラウド・コンピューティングなどの分野における技術的進歩によって、より複雑な情報を安価に扱えるようになったこと。さらには、学習や訓練のためのデータボリュームが大幅に増えたことなど、いくつかの技術的進化が重なったことで実用化へと一気に進んだのである。

エヌビディアからのGPUの「調達力」がAIサーバーを手掛ける企業の差別化要因に

AI技術が普及期に入り息の長いブームになる可能性がある中で、AIサーバーに対する需要も拡大していくことが予想される。サーバーを手がける企業にとってはエヌビディアからのGPUの調達力が企業の差別化要因となっている。

エヌビディアが11月21日に発表した2023年8-10月期決算を振り返っておこう。売上高は1年前の約3倍となる181億2000万ドル、純利益は92億4300万ドルと前年同期の約14倍に拡大し、いずれも過去最高を更新した。

【図表4】エヌビディアの売上高と純利益
出所:決算資料より筆者作成

11月22日付けの日本経済新聞の記事「最高益NVIDIA、時価総額1年で3倍 日米株式市場に波及」は、ジェンスン・ファンCEOの「エヌビディアは本質的にAIファウンドリー(受託製造会社)」だとするコメントを紹介。同社が手がける専用半導体を基盤として、次々と新たな生成AI技術が誕生していると強調した。

大規模言語モデルの学習や動作にはデータセンターで大量のGPUを使うため、需給逼迫によって単価は上昇し、市販価格は500万〜600万円するケースもあると言う。

【図表5】エヌビディアの分野別売上高の推移
出所:決算資料より筆者作成

エヌビディアの成長を牽引したのはAIを中心とするデータセンター部門の売上だ。今四半期に約145億ドルの売上をもたらし、前年同期から279%増加した。過去主力とされていたゲーム向けは売上が伸び悩む一方、データセンター向けの売上は2年前の4倍あまりに拡大している。

エヌビディアの懸念材料は中国事業の大幅減少

懸念材料があるとすれば、長引く米中対立を背景とした中国向けの出荷だろう。バイデン米政権はAI半導体について対中輸出規制を強化しており、エヌビディアの決算説明会においてもエヌビディアのコレット・クレスCFO(最高財務責任者)は、全社売上高の2割を占める中国事業について「大幅に減少する」との見通しを示した。

2022年10月に米商務省から先端半導体の対中輸出規制が出されてからというもの、エヌビディアは規制の網にかからないように性能を落とし、仕様を変更した中国向け製品を開発し、投入してきた。しかし、規制の強化により、今後こうした商品についても輸出できなくなる可能性が高い。

以下のグラフは、エヌビディアの地域別売上高を示したものである。昨年以降、米国向け(青)の売上が急増していることがわかる。その一方で、懸念されている中国向け(赤)に関しては、一時大きく落ち込むところがあったが、性能を落とした製品を販売するなどの企業努力もあり、直近では回復してきている。

【図表6】エヌビディアの地域別売上高の推移
出所:決算資料より筆者作成

バイデン政権によって最近打ち出された輸出規制は、AI向け用途で中国に販売できる半導体の種類を規定するものである。エヌビディアのコレットCFOは、第4四半期は中国およびベトナム、中東の特定国を含む他の地域への売上げが大幅に減少すると述べると同時に、中国向けの輸出を相殺するようなさまざまな機会が、他のすべての地域にあるとコメントした。

インド企業との協業が加速化か

直近ではエヌビディアがインド企業との協業を加速させているとの指摘もある。12月2日付けのTECHABLEの記事「NVIDIA、インド企業との協業を加速。中国向け需要をインド市場が満たすか?」は、エヌビディアがインド有数の大企業であるリライアンス・インダストリーズとインド版の大規模言語モデルの開発において協業すると発表した他、タタ・グループも共同でスーパーコンピューターの構築を目指すとしている。

エヌビディアはGPUのみを販売するわけではなく、CUDA(クーダ)のようにAIの使い方を広げられるようなプラットフォームを開発し、それを顧客が活用することで需要を創出している。米中対立の荒波に揉まれるエヌビディアであるが、中国向けの需要を補う規模にまで成長するのはインドなのか、あるいは別の地域なのか、勢力図は今後も変わりそうだ。

エヌビディアのジェンセン・フアンCEOは、「AI(人工知能)は早ければ5年以内に人間とかなり競争できるようになる」と述べている。

石原順の注目5銘柄

エヌビディア [NVDA]
出所:トレードステーション
アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]
出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:トレードステーション
マイクロソフト[MSFT]
出所:トレードステーション
アルファベット[GOOGL]
出所:トレードステーション