以前のコラム(『バイナンスは黒船なのか、それとも_黒い_船なのか』)で世界最大の暗号資産取引所であるバイナンスの不正疑惑について触れたが、その真相の一部が明るみにでた。
2023年11月21日にバイナンスは米国の法令違反の事実を認め、対企業では過去最大となる約43億ドル(約6,400億円)の罰金を当局へ支払うことで合意した。具体的にはAML/CFT対策の不十分により米国財務省傘下の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)と財務省外国資産管理局(OFAC)に対して多額の罰金が支払われる。
また今回の司法取引では、バイナンスのCEOであり、暗号資産業界の顔とも言えるチャンポン・ジャオ(通称CZ)氏の退任が発表された。個人としても有罪を認め、5,000万ドル(約74億円)の罰金とバイナンス事業への関与禁止で当局と合意した。CZ氏は今後の裁判によって最大18ヶ月刑務所に投獄される可能性がある。
今回のニュースについて、バイナンスが歴史的な罰金を支払えるのかという懸念がある。同取引所は独自のブロックチェーン上でBNBトークンを発行しており、罰金の影響で財務状況が大きく悪化した場合には、FTXショックと同様、BNB価格の暴落とともにエコシステム全体が崩壊する最悪のシナリオもあるだろう。
一方で、バイナンスは罰金に耐えうる利益を蓄積しており、むしろ当局との和解に至ったことがマーケットとしてはポジティブであるとの見方もある。司法取引では本件発表による市場全体への影響も十分に配慮されていると思われ、バイナンスが和解成立後に事業を継続できることも明らかとなっている。
バイナンスの問題を通じて米国当局の関係性も見え隠れする。今回の和解の対象には米国財務省および司法省の他に米国先物取引委員会(CFTC)が含まれているが、米国証券取引委員会(SEC)は含まれていない。CFTCとSECは暗号資産に関する縄張り争いをこれまでも続けており、バイナンスの件はCFTCが政治的な勝利をおさめた形である。
いずれにしてもバイナンスの動向には継続して注視が必要だが、次の大きな波が訪れる前に暗号資産市場の黒い噂が解消されたことは好材料だろう。