◆プレゼンテーションでもキャッチコピーでも出来の良いものには「3つ」の言葉が効果的に使われている。スピーチで有名なのはドロップボックス社の創業者CEOであるドリュー・ヒューストンがマサチューセッツ工科大学の卒業式で語った3つのキーワード、「テニスボール」「サークル」「30,000」だ。映画のタイトルでは、『セックスと嘘とビデオテープ』というのもあった。嘘といえば、一昨日、GDP二次速報の改定値を目にした僕の第一声はひとこと、「嘘!?」であった。それで、こんな箴言を思い出した。
「嘘には3つの嘘がある。普通の嘘と大嘘と、統計である」
◆GDPの二次速報が下方改定された背景などについては、昨日のストラテジーレポートをご参照いただきたい。ここで思うのは、統計をつくる担当官たちの愚直さである。GDPの一次速報が大方の予想に反してマイナス成長となったとき、GDP予測一筋十数年というヴェテラン・エコノミストに僕は疑問をぶつけた。「今回のQE(GDP四半期速報のこと)はどうも怪しい。安倍さんが消費増税先送りして解散したいために、わざと悪い数字を出すように圧力がかかったのでは?」
エコノミスト氏「いや、それはない。仮に恣意性が働いた(働かされた)とするならもっとマシな数字を出すよ。ここまで極端な数字は担当官たちが愚直なまでにマニュアル通りの推計をおこなった結果だろう」
◆今回の二次速報でマイナス幅が拡大したのは、担当官たちがさらに愚直に職務を遂行したからにほかならない。民間予測と内閣府公表の数字 - もちろん「正しいGDP」はひとつしかなく、政府が発表するものに決まっている。しかし、「正しい景気」を表しているのはどちらだろうか?民間予想の平均値とこれだけ乖離するGDP統計に、果たして景気指標としての有効性はあるのだろうか。
◆内閣府HPから四半期別GDP速報の項目をたどると、「統計の目的」として以下のような記載がある。
<四半期別GDP速報は、一国全体のマクロ経済の状況を明らかにする国民経済計算のうち、支出系列及び雇用者報酬について毎四半期毎に公表することで、カレントな景気判断を行うための基礎資料となることを目的としている。>
「カレントな景気判断を行うための基礎資料となること」が目的だそうだ。なぜここだけ「カレント」と英語でいうのか意味不明だが、しかし、これではちっとも「カレント」ではない。
◆そういえば、GDPの発表も「3つ」が基本だ。速報値、改定値、確定値の3つである。問題なのは改定されても全然、「真実の値」に近づいていかないことだ。疑いたくないが、担当官たちの統計能力は確かなのだろうか。こんなジョークもある。
「この世には3つの種類の人種がいる。数を正しく数えられるヤツと数えられないヤツだ」
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆