◆月曜日の小欄、第116回「SEKAI」で言及したテイラー・スウィフトは今や世界のヒットチャートを席巻する歌姫だが、元はアメリカのカントリー歌手としてデビューした。現在、ラジオ等でヘビーローテートされている彼女の楽曲も、ベースはカントリーだ。例えるなら、日本の演歌がビルボードチャートの上位に並んでいるようなものである。テイラー・スウィフトはテレビドラマや映画にも女優として出演するなど人気絶頂。そんな彼女の曲がSpotifyから突然消えたのだから話題騒然となったのも無理はない。
◆Spotifyとは音楽をストリーミング配信するサービスだ。音楽業界はだいぶ前からCDが売れなくなっている。CDを買って音楽を聴くというより、ダウンロードしたりストリーミング配信で聴いたりすることが一般的になって久しい。このスタイルはリスナーにとっては便利だが、アーティストにとっては経済的に不利だという。日本人アーティストのなかにもCDが売れない今の音楽ビジネスの現状に否定的なコメントをするひとが多くいる。
◆しかし、SpotifyのCEO、ダニエル・エク氏に言わせると、それはストリーミングやダウンロードという「システム」が悪いわけではなく、アーティストへの利益配分がもともと低い既存の音楽業界のビジネスモデルに問題があるのだという。確かにテクノロジーの進化による利便性の向上を否定するのは筋違いだろう。アーティストに抵抗感はあっても、その流れ自体は不可逆的で抗えないものと思うべきである。
◆デバイスは変わってきたではないか。蓄音機に始まり、レコード、カセットテープ、CD、MD、そしてモバイルの機器へ。モバイル機器だってウォークマンからiPod、そして様々なモバイル端末へと広がっている。進化は止められない。栄えるものあれば、廃れるものもある。だからこそ、また新たな挑戦をしようという気概が生まれるのだ。
◆音楽は - 特にロックのようなストリートミュージックは、持たざる者が成り上がる手段のひとつであったことは確かだ。音楽ビジネスが儲からなくなれば、その道で「成り上がろう」と思う若者の絶対数は減るだろう。しかし、その一方で、そのムーブメントのなかにチャンスを見出して一発当ててやろうと思う者も必ずいると信じる。なぜなら「成り上がり」代表の永ちゃんこと矢沢永吉自身こう言っているからだ。「ダウンロードの時代だからさ、ダウンロードできないことをやろうよ」。永ちゃんは65歳。これが、ロックンロールの魂だと思う。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆