長期的視野での投資に欠かせない非財務情報

株式投資をする人は誰しも、「(自分が株式を購入した)この企業の株価が今後上がるのかどうか」を気にかける。ただし、「今後」という言葉の意味するところは、日々の売買の中で利益を追う人から、老後に備えてコツコツと購入し長期保有する人まで様々だ。

後者のような人にとっては、目先の株価の上下ではなく長期的な見通しが重要となる。正確に見通すことはもちろん不可能であるものの、中長期的な企業価値を見通す際に参考になると言われるのが「非財務情報」である。多くの機関投資家はこの非財務情報に関心を寄せており、関連する世の中の動きは活発化している。

いま、なぜ非財務情報が重要なのか?

非財務情報とは、「財務諸表に示される定量情報」以外の情報を指す。例えば、中長期の経営戦略、環境問題や社会課題に関連する事業リスクや機会、関連する会社の目標と達成に向けた取組み、コーポレートガバナンス、知的財産情報などが含まれる。これらの非財務情報が、将来の財務情報や、ひいては企業価値に影響するとされるのにはいくつか理由がある。代表的なものとして挙げられるのが次の2つだ。

1.将来、地球環境や人間社会に変化が生じることで企業活動に影響が及び(リスクや機会が生じ)それが財務情報に表れるため

2.人財や知的財産などの無形資産に対する企業の取り組みの成果・効果は時間をかけて財務情報に現れるため

機関投資家が将来の企業価値を測るための材料として非財務情報に注目するようになったのは2010年前後からだ。この頃から、気候変動などの地球規模での環境問題が長期的に企業活動に影響するとの見方が増え、また、企業価値における無形資産の占める割合が増加傾向にあるとの指摘に注目が集まるようになった。

非財務情報開示基準の乱立と統合

2010年代の後半は、前述した投資家の注目を背景に、様々な非財務情報開示のためのフレームワークや基準、規制が乱立した。基準が乱立したため情報を開示する企業側の負担は大きく、開示された情報を元に将来の企業価値を見通そうとする投資家にとっても、横並びでの比較が難しい状況が生じた。

こうした状況を打開すべく、2020年代に入り、非財務情報開示に関するフレームワークや基準を統合する動きが出てきた。国際会計基準を定めるIFRS財団が設立した「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」が統合作業の要となっている。

ISSBは2023年6月に「IFRSサステナビリティ開示基準」を公表し、まずは気候変動関連の情報開示基準の統合が果たされた。今後、生物多様性や人権、人的資本などの領域の基準も策定される予定であり、時間はかかるであろうが、同基準がグローバルベースラインとして機能していくことになるだろう。

グローバルベースラインが参照するフレームワーク

6月に公表されたIFRSサステナビリティ開示基準は、その報告のフレームワークとして、「気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース (TCFD) ※1」を参照している。このTCFDの生物多様性版が「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)※2」であり、9月18日にフレームワークの最終版(v1.0)が公表された。こちらも今後IFRSサステナビリティ開示基準が参照し、グローバルベースラインとなっていく可能性が高い。

ただし、生物多様性に関する開示はまだ気候変動ほど一般的になっていない。まずはグローバル企業による開示事例の蓄積が進み、TNFDのフレームワークの有用性やアップデート要否についての見極めを待つことになるだろう。

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に基づく開示をする企業に注目

これまでに公開されたベータ版を活用し、すでにTNFDに基づく開示を実践する会社が出てきている。今後追随する会社も増えていくだろう。足元では活用が必須ではないからこそ、試行錯誤をしながら「先んじて開示を始める」企業の動向に注目が集まりそうだ。

まずは可能な範囲で開示を進め、開示内容の拡充やリスク・機会への具体的対応の深化については、段階を踏んで徐々に進めるという姿勢を評価する投資家は少なくない。先行して開示を進める企業には要注目だ。

(※1)2015年にG20からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設置された、気候変動関連財務情報開示のフレームワークを策定しカーボンニュートラルを目指す民間主導のタスクフォース。2017年6月に最終報告書(いわゆるTCFD 提言)を公表。
(※2)2020年にグローバル・キャノピー、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEPFI)、WWFなどにより立ち上げられた、自然(生物多様性など)関連財務情報開示のフレームワークを策定する民間主導のタスクフォース。

 

コラム執筆:宮森 映理子/丸紅株式会社 丸紅経済研究所