2022年の方が厳しかった円安阻止環境
10月3日、米ドル/円は年初来の米ドル高値を更新、さらに150円の大台に乗せた後、一転して147円半ばまで急落となった(図表1参照)。このため、日本の通貨当局による円安阻止の米ドル売り・円買い介入が行われた可能性も注目された。
日本の通貨当局による円安阻止介入は2022年に9月22日、10月21、24日、以上3回行われたが、介入があった日の米ドル最大下落幅は全て5円前後の大幅となった(図表2参照)。これに対して、3日の米ドル最大下落幅は2.6円程度。2022年の介入が行われた後の米ドル下落幅に比べると小幅だった。その意味では、介入はまだ実施されなかったのかもしれない。
2022年の場合は、145円から円安阻止介入が始まったのに対し、今回は150円を越えても介入に動いていないとするなら、それは円安を止める自信がないため慎重になっているためではないかとの見方もあるようだが、それは違うのではないか。むしろ逆で、1年前より介入しなくても円安には自ずと限度があると判断しているのではないか。
米利上げの収束感、円安の限度など環境の違う2023年
2022年の場合、最初に介入を行った9月、FOMC(米連邦公開市場委員会)は0.75%の大幅利上げを行い、さらにインフレ対策の利上げはまだまだ続くとの見通しが基本だった。そうした中では、米金利上昇に連れた米ドル高の結果としての円安も、放っておけばまだまだ進む可能性があったことから円安阻止の介入に出動したということだろう。
これに対し、最近はインフレ対策の米利上げも終わった可能性が出てきた。利上げと米ドル高・円安の関係は、1年前とはかなり違うと言えるだろう。今回の場合は、利上げよりも予想以上に強い米景気を受けた10年債利回りなど、長期金利上昇に米ドルが反応している感じがある。またすでに4.8%まで上昇した米10年債利回りのさらなる上昇余地にも、自ずと限度があるのではないか。
米政府に対する遠慮から米ドル売り介入に慎重になっているのではないかとの見方もあるが、それも違うだろう。外国政府に対して介入を配慮するのは、今回のような円安阻止局面ではなく、円高阻止が自国通貨安誘導と疑わられかねない局面と言うのが基本だ。自国通貨安誘導は、「近隣窮乏化政策」として諸外国からの批判の対象になり得るためだ。それとは異なる今回のような自国通貨の下落を止めるために介入が必要な場合は、米国などの「お墨付き」がなければ介入できないと言うことでは、基本的にはないだろう。