AIブームを支える黒子AIサーバーの需要が急拡大

2022年から2026年までのAIサーバー出荷台数の年平均成長率は22%に

AI(人工知能)需要の高まりを受け、ディープラーニング向けに膨大な量のデータを処理するAIサーバーの出荷台数が今年(2023年)、前年比38.4%増と大幅に増える見通しだ。これは台湾の市場調査会社TrendForceが5月30日に発表した予測である。

GPUやASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途に向けて複数機能の回路をひとまとめにした半導体集積回路)を搭載した約120万台のAIサーバーが世界の市場に出荷される。TrendForceによると、AIサーバーは2023年にサーバーの総出荷台数の約9%を占めるが、2026年にはこの割合が15%にまで高まる見込みだ。2022年から2026年までのAIサーバー出荷台数の年平均成長率(CAGR)は22%になると予測している。

【図表1】AIサーバーの出荷台数(2022~2026年)
出所:TrendForceのデータより筆者作成

ゲイツ氏「産業界全体がこの技術を中心に方向転換することになる」

マイクロソフト[MSFT]の創業者であるビル・ゲイツ氏は今年3月、「The Age of AI has begun(AIの時代が始まった)」と題するブログを投稿し、人工知能は、携帯電話、マイクロプロセッサー、パーソナルコンピューター、インターネットと同じように革命的なものだと主張した。

ブログの中でゲイツ氏は、自分が生きている間に革命的だと感じた技術のデモンストレーションを2度、目にしたことがあると述べている。ひとつは1980年、Windowsをはじめとする現代のあらゆるオペレーティングシステムの前身となるグラフィカル・ユーザー・インターフェースに触れたときのこと。そして2つ目の大きな驚きはちょうど去年、AIの進歩を目の当たりにした時である。

ゲイツ氏は2016年からオープンAIのメンバーと面識があり、彼らの着実な進歩に感銘を受けていた。AIは、人々の仕事、学習、旅行、健康管理、コミュニケーションのあり方を変えると述べており、産業界全体がこの技術を中心に方向転換することになるとしている。そして企業はAIをいかにうまく利用するかで、自らを差別化することができるようになるだろうと述べている。

【図表2】拡大が続く世界のAI市場
出所:Market.USのデータから筆者作成

米調査会社のMarket.USのレポートによると、世界のAI市場は2032年に2兆7450億ドルまで拡大すると試算されている。年平均成長率は約36%だ。半導体の計算能力の向上とともにAI技術が進化していくことが期待されている。

2010年代から始まっていたとも言われるAIを巡る競争

市場シェアは70%以上と言われるエヌビディア[NVDA]のGPU

現在AIサーバー向けの半導体で支配的な存在となっているのがエヌビディア[NVDA]のGPU(画像処理半導体)で、その市場シェアは70%とも80%とも言われている。TrendForceによると、エヌビディアのハイエンド向け主力GPUであるA100とH100を搭載したAIサーバーの出荷台数は、年間50%という成長率で増加することを予測している。

ITビジネスの情報サイト、週刊BCNの9月18日の記事「需要が過熱するNVIDIA GPU 国内にも押し寄せる「AI用ITインフラ」の波」によると、ChatGPTに代表される生成AIが注目を集めるようになった2022年来、AIモデルの構築に欠かせないGPUの需要が急速に高まっている。とりわけエヌビディアの高性能製品は供給が追いつかない状況が続いており、先進企業やクラウド事業者の間で国際的な「争奪戦」が繰り広げられている。

生成AIのブームによってデータセンターの主役はこれまでとは大きく異なるGPUを搭載したサーバーに取って代わっている。日経クロステックの記事「生成AI時代の主役、GPUサーバー「NVIDIA DGX H100」を解剖」によると、その内部は従来型サーバーとは大きく異なると言う。エヌビディアのAI用GPU「H100」を搭載するAIサーバーの「DGX H100」では、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングや推論に欠かせないH100が8個搭載されており、組み立てに専用のロボットが必要なほどのボードだ。

GPUサーバーが登場した当初は、既存のゲーム用のGPUを転用していたが、今やAI専用に設計製造された巨大GPUが使われている。このAI専用のGPUであるA100およびH100の収益性は非常に高いため、エヌビディアの業績が急拡大している。

2016年からの変局点、周辺データ関連技術の進化の連なりでの実用化へ

図表3は2013年からのエヌビディアの売上高と株価の推移をまとめたものである。生成AIブームが沸き起こった2022年を境に売上が急増し、株価も大幅に上昇している。一方で実は2016年以降から、売上高に変局点があることが見てとれるだろう。

ディープラーニングの技術自体は新しいものではない。大部分のコンセプトは十年以上も前に提唱されていた。それがここに来て開花したのにはいくつか理由がある。ひとつは、従来からあるニューラルネットワークをうまく組み合わせることができるようになりアルゴリズムの性能が飛躍的に上がったことである。

それに加え、クラウド・コンピューティングなどの分野における技術的進歩によってより複雑な情報を安価に扱えるようになったこと。さらには、学習や訓練のためのデータボリュームが大幅に増えたことなど、いくつかの技術的進化が重なったことで実用化へと一気に進んだのである。

【図表3】エヌビディアの売上高(年次)と株価の推移
出所:決算資料より筆者作成

2011年、2,000個のCPUに匹敵するパフォーマンスを12台のGPUで上げる

エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは自社のHPに「GPUによるAIの高速化――新たなコンピューティング・モデルの誕生」と題する投稿を2016年1月12日に行なっている。それによると、2011年頃から、AIの研究者がエヌビディアのGPUに注目するようになったそうだ。ちょうどその頃、グーグル[GOOGL]のAI研究を行うチーム「グーグル・ブレイン」が画像認識でネコと人を区別できるようになるという驚異的な成果を挙げたタイミングだった。

その処理を行うために、グーグルは巨大なデータセンターにずらりと並んだサーバーを使い、2,000個ものCPUを回していたそうだが、そこに登場したのがエヌビディアのGPUだった。GPUをディープラーニングに適用してみたところ、わずか12個のGPUで2,000個のCPUに匹敵するパフォーマンスを挙げられることがわかったというのだ。

その後、ニューヨーク大学、トロント大学、スイスAIラボなどで、GPUによるディープ・ニューラル・ネットワークの高速化が始まり、これが爆発的な普及につながっていく。そして、コンピュータによる画像認識精度を競う2012年の大会で、トロント大学のチームが大差をつけて勝ったことで、GPUを使ったAI開発のレースが始まった。

2015年はAIの「超人的」能力が世界に認知された年となる

次の節目は2015年に訪れた。ディープラーニングによって開発されたAIモデルが、人間以上のプログラム開発を出来るようになったり、IQ試験で大学院生並みのスコアを得ることに成功したり、語学の習得にも成功したという報告が相次いだ。つまり、2015年はAIが「超人的な」認識能力を持っていることが世界に明らかになった年だった。

コンピュータのプログラムは、基本的に並んだコマンドが順を追って実行されていくのに対し、ディープラーニングでは並列にトレーニングしていくことが求められる。それを効率的に走らせることが出来る理想的なプロセッサはGPUだったというわけだ。

ジェンスン・ファンCEOは投稿を次のように締め括っている。

ディープラーニングというブレークスルーにより、AI革命が始まりました。AIディープ・ニューラル・ネットワーク搭載のマシンなら、複雑すぎて人間のプログラマでは対処できない問題も解くことができます。データから学び、使うたびに成長することができるからです。同じディープ・ニューラル・ネットワークを、それこそプログラマでない人がトレーニングし、別の問題を解かせることさえ可能です。指数関数的な普及が見込まれます。そして、社会に対する影響も、きっと指数関数的になるはずだとNVIDIAでは考えています。

改めてであるが、これは2016年の投稿である。エヌビディアとジェンスン・ファンにはAIの未来と大躍進するGPUの未来が見えていたようだ。

エヌビディアGPUの調達力の違いが企業の生命線になる

エヌビディアのパートナーとして急伸するスーパー・マイクロ・コンピューター社

今年下半期にかけ、クラウドや電子商取引サービス、金融、保険、スマートヘルスケア、ADAS(先進運転支援システム)など、あらゆる専門分野においてAIサーバーの採用が加速すると予測されている。世界のサーバー市場は約1400万台、AIサーバーはまだ開発の初期段階にあるものの今後成長が見込まれる市場で、関連サプライチェーンの80%以上は台湾の産業界によるものだ。

米スーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]はAIサーバーの分野で急速に成長しているプレーヤーの一つである。1993年に設立されたスーパー・マイクロは、AI技術を可能にするサーバーとストレージソリューションを提供する企業である。スーパー・マイクロが注目されている理由は、AI時代の主役であるエヌビディアと良好なパートナーシップを築いているところにある。

スーパー・マイクロが8月8日に発表した2023年第4四半期(2023年4-6月期)の決算で、売上高は前年同期比34%増の21億8500万ドル、純利益は38%増の1億9300万ドルだった。通期で見ると売上高は前年比37%増、純利益は2.2倍に拡大した。

決算報告の中で、チャールズ・リャン社長兼CEOは、好業績の原動力は主要なAI向けプラットフォーム、特に大規模言語モデルに最適化されたエヌビディアのHGXベースの製品に対する需要をあげ、人工知能に対する「かつてない需要」があると言及した。また、2023年6月末受注残高は過去最高と記録的なバックオーダー、及び新規顧客を抱えて2024年度に入ることも明らかにした。

ジェファスンCEO「地球で最強のAIスーパーコンピューターが台湾で誕生する」

【図表4】スーパー・マイクロの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

ダイヤモンドオンラインの8月11日の記事「AIサーバー需要急騰、“黄金の10年”を迎える台湾部品産業の「AI注目23銘柄」」によると、米エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは台湾で開催された国際展示会「COMPUTEX」で、「地球で最強のAIスーパーコンピューターが台湾で誕生する」と発表したが、それに向けて出荷が優先される企業のうち1社はスーパー・マイクロだとしている。

AI全般が普及期に入り息の長いブームになる可能性がある中で、AIサーバーに対する需要も拡大していくことが予想される。サーバーを手がける企業にとってはエヌビディアからのGPUの調達力が企業の差別化要因となっている。台湾が世界のAIを牛耳る重要なプレーヤーになっているのは間違いない。

石原順の注目5銘柄

エヌビディア [NVDA]
出所:トレードステーション
アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]
出所:トレードステーション
インテル[INTC]
出所:トレードステーション
スーパー・マイクロ・コンピュータ[SMCI]
出所:トレードステーション
デル・テクノロジーズ[DELL]
出所:トレードステーション