スーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]、当局の調査を受ける中で10:1の株式分割期日到来

今回は半導体市場に関連したいくつかの話題を個別に取り上げていきたい。まずは米サーバー製造大手のスーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]だ。同社は、米半導体大手エヌビディア[NVDA]が設計した半導体チップを使う特殊なサーバーを製造している。エヌビディアのGPU(画像処理半導体)の調達力の強さが差別化の1つで、直近、株価は急落しているものの、AI関連銘柄の強気相場に乗って浮上してきた経緯があり、年初来では5割ほど上昇している。

直近急落のきっかけとなったのは、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)9月27日付けの記事「サーバー大手スーパー・マイクロ、米司法省が調査 元従業員が会計違反で告発」で、米司法省がスーパー・マイクロ・コンピューターを調査していると報じたことである。複数の関係者が明らかにしたところによると、空売りで知られる投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが会計操作等を含む複数の問題を指摘するレポートを出したことを受け調査が始まったという。

ヒンデンブルグ・リサーチは8月27日にレポートを公開し、スーパー・マイクロ・コンピューター株式に対して売りポジションを取ったと発表した。レポートは、スーパー・マイクロ・コンピューターが一部、不適切な収益認識を行っていたとする元従業員の告発や、同社とチャールズ・リャン最高経営責任者(CEO)の家族が経営する企業間の取引などに焦点が当てられている。

スーパー・マイクロ・コンピューターは財務報告の過程について評価するのに時間がかかり、期日までに2024年6月期決算の年次報告書を提出できないと発表した。こうした動きの中、9月30日には1株を10株に分割する株式分割の期日を迎える。同社が株式分割を発表したのは8月初旬で、ヒンデンブルグのレポートが発表される3週間近く前のことだった。

10月1日からは分割後の価格で取引が開始されることになる。通常、株式分割まであと数日という段階になれば、分割後の株式がどの程度の価格で取引されるのかの検討はつくが、司法省による調査の可能性が報じられたことで、スーパー・マイクロ・コンピューターの株価は分割まで不安定な動きとなる可能性がある。

2018年、同社は財務諸表の未提出によりナスダックから一時的に上場廃止となった経緯がある。不適切な収益計上と費用過少計上に関連する「広範囲にわたる会計違反」により、SEC(米国証券取引委員会)から告発された。悪習が企業の慣習となっているのだろうか。今後の調査結果が待たれる。

インテル[INTC]最大の誤算は、スマートフォン向け半導体チップへの参入見送り

クアルコム[QCOM]がインテル[INTC]へ過去最大規模となる買収を提案

2024年9月、かつての半導体業界の巨人インテル[INTC]に同業他社から買収の打診があったことが報じられた。話をもちかけたのは米半導体大手のクアルコム[QCOM]である。クアルコムによるインテル買収を実現するために、インテルの資産や一部事業を他社に売却する可能性があることも伝えられた。

インテルの時価総額(約900億ドル)は、米マイクロソフト[MSFT]がゲーム会社、米アクティビジョン・ブリザード買収に投じた約690億ドルを上回っている。WSJによると、クアルコムがもしインテルの会社全体を買収することになれば、テクノロジー業界で過去最大規模のM&Aとなる可能性がある。

一方で、インテルが受け入れた場合でも、反トラスト法(独占禁止法)の審査が障壁になる恐れがあるため、関係者の話として現時点では「合意にはほど遠い」とも伝えている。ただし、この取引が米国の半導体における競争力を強化する好機と見なされる可能性もある。半導体メーカーとして50年の歴史を持つインテルにとっては、深刻な危機に直面している中での決断となる。

インテルは2024年4-6月期の最終損益が16億ドルの赤字と業績不振に陥っている。広範囲にわたるコスト削減策の一環として、2024年8月には、大規模な人員削減や配当金の支払いを一時停止する計画を発表した。

また、9月16日には半導体の受託生産(ファウンドリー)を含む製造部門を分社化すると発表した。自社で設計した製品も受託生産の子会社が製造を請け負うことになる。子会社として他の事業と切り離すことで、外部から資金調達できるようにするとの狙いだ。すでに米国政府から最大85億ドルの助成金が支給される可能性も伝えられている。

インテル、初代iPhoneへのチップ供給がもし実現していれば…?

クアルコムは、スマートフォン向けチップの大手サプライヤーであり、携帯電話と携帯電話基地局間の通信を管理するチップなども手がけている。さまざまなデバイスがある中でも、クアルコムはとりわけアップル[AAPL]のiPhoneにとって最も重要なサプライヤーの1社である。

今回の取引により、クアルコムはカバーする事業範囲が大幅に拡大することになる。一方のインテルにとっては、過去に参入しないと判断したスマートフォン向けチップ事業による返り討ちを約20年後に受けるような形になる。アップルが2007年に発売したiPhoneは世界を席巻し、パソコン一強の時代は終わりを告げることになった。結果として、ウィンテル連合と呼ばれパソコン向け半導体を独占していたインテルは苦境に立たされることになった。

アップルは当初、初代iPhone用プロセッサの生産委託をインテルに打診したそうだ。スティーブ・ジョブズ氏自身が実際にインテルとの交渉を行ったと言われている。CNET Newsの2013年5月17日付けの記事「インテル前CEO、初代iPhoneへのチップ供給を見送ったことを明かす」は、当時、The Atlantic社がオッテリーニ元CEOへ行ったインタビュー内容を次のように取り上げている。

われわれは結局、その機会を獲得しなかった、あるいはそれを見送った。どちらの表現を使うかは、その人の見方による。そして、もしわれわれがそれをやっていたら、世界は非常に違うものになっていただろう。忘れてはならないのは、これはiPhoneが発売される前の話で、iPhoneがその後、何を成し遂げることになるのか誰も知らなかった、ということだ。

結論を言うと、Appleはあるチップに関心を抱いており、それに一定の金額を払いたいと考えていたが、その金額以上はビタ一文も出す意思がなかった。そして、それはわれわれの予測していたコストより低い金額だった。私には、それが上手くいくとは思えなかった。それは、生産量を増やすことで埋め合わせられるようなことではなかった。そして、今思い返してみると、われわれの予測したコストは間違っており、生産量はあらゆる人が考えていた量の100倍だった。

アップルが提示した額は確かにインテルが予測していたコストより低かった。このため、当時下された決断は妥当だったのであろう。一方で、スマートフォンという新しいデバイスがどの程度世界に浸透していくのか、全ての物事を過去の延長線上にあると考えた場合、見通すことが出来なかった。これが、インテル史上最大の誤算になった。

2025年分もすでに完売、メモリー市場をけん引するHBM(高帯域幅メモリー)

HBMを収益源にマイクロン・テクノロジー[MU]が大幅増収

半導体メモリーメーカーの米マイクロン・テクノロジー[MU]が9月25日、2024年6-8月(2024年第4四半期)の決算を発表した。売上高は前年同期比93%増の77億5000万ドル、最終損益は8億8700万ドルの黒字と、1年前の赤字から大幅に改善した。年間(2024年度)売上高は251億1100万ドルと、前の年に比べて60%の大幅増収となった。

9月26日付けのブルームバーグの記事「マイクロン株急伸、強気の業績見通し公表-AI機器の需要好調」は、マイクロン・テクノロジーのグローバルオペレーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのインタビューを取り上げ、「マイクロン・テクノロジーはより高度なメモリーを大量に安定供給した最初のチップメーカーであるため優位性がある」「AIのソフトウエアとハードウエアの強化に各社がしのぎを削っており、そのプロセスでより多くのメモリーが使用されるため、同社は有利な立場にある」とのコメントを報じている。

次の四半期(2025年第1四半期)についても好調は続く見通しだ。AI関連機器の需要を追い風に、売上高、利益ともに市場予想を上回るとのことだ。マイクロンなど半導体メーカーにとって新たなかつ大きな収益源となっているのはHBM(高帯域幅メモリー)だ。需要が供給を上回る状況が続いていることから、マイクロンは価格を引き上げ、長期の保証付き契約を確保することができている。すでに2024年分だけではなく、2025年分の製品についても完売したことを明らかにした。

【図表1】マイクロン・テクノロジーの売上高と最終損益の推移
出所:決算資料より筆者作成

生成AI半導体市場が急拡大する中、AI半導体に欠かすことのできないHBMに対する需要が急激に高まっている。HBMはこれからのAI時代に必須の部材であり、ここ数年、不況に直面してきたメモリー半導体セクターにおいては大きな収益が見込まれる期待の星でもある。まだメモリー市場全体における割合としては決して大きくないが、収益性は他のDRAMに比べ5倍~10倍だと言われている。

【図表2】マイクロン・テクノロジーのビジネスユニット別売上高(単位:100万ドル)
出所:決算資料より筆者作成

WSTS(世界半導体市場統計)が2023年11月28日に発表した製品分野別成長率によると、2024年はアナログやロジックがいずれも前年比1桁成長にとどまる見通しであるのに対し、メモリー市場の成長率は44.8%増と全体をけん引する見通しだ。

【図表3】半導体市場の製品別成長率の推移
出所:WSTSのデータより筆者作成
【図表4】マイクロンの設備投資の推移(単位:百万ドル)
出所:決算資料より筆者作成

HBM市場におけるシェアを拡大すべく、マイクロン・テクノロジーは積極的な投資を継続している。2024年度の設備投資はほぼ計画通りの81億ドルだった。これらの投資が業績に本格的に寄与してくるまでには数年を要することが想定されるが、同社はこれらの投資について10年後の供給成長を支えるために必要だとしている。拡大するAI向け市場をいかに獲得していくのか、メモリーメーカーの勢いはしばらく続きそうだ。

石原順の注目5銘柄

スーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]
出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA]
出所:トレードステーション
インテル[INTC]
出所:トレードステーション
クアルコム[QCOM]
出所:トレードステーション
マイクロン・テクノロジー[MU]
出所:トレードステーション