◆先週ニューヨークに出張してきた。今回の旅はかつてないほど順調だった。海外出張では、大抵、ちょっとしたトラブルが起こる。現地に着いてから、面会のアポイントが変更になってスケジュールが狂ったり、交通機関の乱れで約束の時間に間に合わなかったりすることがあった。

◆ところが今回はすべて予定通りにスケジュールをこなすことができた。フライトも遅延なく定刻通りJFK国際空港に到着した。エボラ熱騒ぎで普段よりも入国手続きに時間がかかるのでは?という心配も杞憂に終わり、スムースに入管審査を通過、着陸後1時間もたたずにマンハッタンのホテルにチェックインしていた。ニューヨークでの移動は地下鉄と徒歩と決めていた。タクシーに頼ると渋滞などで時間が読めないからだ。面会先はミッドタウン、ダウンタウン、ハドソン川対岸のニュージャージーと広範に点在していたが、すべて約束の時間通りに訪れることができた。気候は、暑くも寒くもなく気持ちのいい秋晴れが続いた。

◆僕はものごとを悲観的に考えるたちで、これだけ順調にいくとそのうち想定外のことが起きると思ってしまう。案の定、起きた。ウェブカメラとマイクを持ち込んで現地からライブでオンラインセミナーを実施したのだが、その3日目、ニューヨークのグランドセントラル駅構内から中継する予定だったが電波の具合が悪く映像・音声とも固まってしまったのだ。事前のチェックが甘かった。反省して次回に活かそう。

◆今回このタイミングでニューヨークを訪れたのは、米国のQE(量的緩和)終了という歴史的瞬間に立ち会うためであった。QE終了に際しニューヨークの投資家のセンチメントを感じ取るのが出張の目的であった。FRBは予定通り、先週のFOMCでQEの終了を決めた。株式市場の反応はおとなしかった。すべては予定通り、想定内のことだと言わんばかりに。

◆今回の旅が快調だった理由のひとつに時差の調整がうまくいったことがあげられる。ニューヨークでも早寝早起きだった。昼間マンハッタンを歩き回り不慣れな英語でミーティングをいくつもこなすと、くたくたに疲れて夜はバタンキュー、熟睡である。本当に予想外のサプライズが起きたのは、すべての予定を終え帰国を翌日に控えた真夜中のことだった。日銀の追加緩和である。その決定が伝わったニューヨーク最終日の深夜、僕は完全に夢の中であった。日経平均が7年ぶりの高値へと駆け上がるところを目にすることはできなかった。

◆米国のQE終了に立ち会うためニューヨークに行ったら、日銀の追加緩和と市場の急騰を見逃した。なんとも、うまくいかないものだ。さらにおまけがある。ニューヨークでは時差ボケがなかったが、日本に帰ってきてから時差ボケで昼間ぼーっとしている。「新潮流」を綴ったはいいが、文章にキレもオチもない。いやはや。人生は思う通りにもならず、予定通りにもいかない。しかし、そこが面白いところである、としておこうか。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆