7月終盤に不動産、金融、大手IT株が大幅高となるも、8月に入ると下落傾向へ
2023年8月の中国本土市場・香港市場は大幅下落となっています。ただし、終盤には反発の動きを見せています。2023年8月1日終値~8月31日終値までの騰落率は、上海総合指数が-5.2%、香港ハンセン指数が-8.1%となっています。
上海総合指数、香港ハンセン指数共に株価は、50日移動平均線や200日移動平均線の下に位置しており、8月終盤には反発したものの下落基調が続いています。
これまでの流れを確認すると7月も終盤に反発していました。7月24日に開かれた中国共産党中央政治局会議での景気対策を期待し、7月25日に不動産、金融、大手IT株などが大幅高となりました。
EV関連もドイツのフォルクスワーゲン社が中国の新興EVに出資したとの報道が出て大幅高し、市場全体を映す香港交易所株や平安保険株も大幅高となっていました。しかし、この政策期待による上昇も数日に終わり、8月に入ると再び下げていきました。特に8月14日からの下げは急激でした。
8月14日から急激に下落した理由ですが、まずは相次ぐ中国の弱いマクロ経済指標の発表があります。
例えば、8月15日に発表された7月の鉱工業生産は前年比3.7%増(市場予想4.3%増、前月実績4.4%増)、7月の小売売上高は前年比2.5%増(市場予想4.0%増、前月実績3.1%増)、固定資産投資は3.4%増(市場予想3.7%増、前月実績3.8%増)でした。また、若年失業率の公表も停止されました。
そして、中国不動産最大手・碧桂園(02007)(カントリーガーデン)のデフォルト懸念の報道が下落を加速させました。これは碧桂園だけの問題ではなく、不動産不況が中国の金融システム全体に与える悪影響が懸念されはじめたのです。これを受けて、銅、アルミなど非鉄金属価格も再び下げだしました。その後には恒大集団が米破産法適用を申請したとの報道も出てきました。
不動産市場の歪みがもたらすシステマティックリスク
今回の問題は中国全体の景気の弱さに加え、その一因として(長年言われ続けてきたことですが)同国経済の大きな部分を占める不動産市場の歪みがもたらすシステマティックリスクです。
もう随分と昔から、中国のいたるところで見られるゴーストタウンのような光景とその建設を支える資金源(シャドーバンキング等)の連鎖危機が不安視されてきました。これによって2015年の夏にはチャイナショックと言われた株式の暴落も起こりました。2年前には不動産最大手クラスだった中国恒大集団のデフォルトによるショック(恒大ショック)が起きました。しかし、その都度救済策が取られ、何とか相場はある程度回復し、不動産企業も損益計算上は利益を出し続けてきました。ただし、それは問題の先送りにすぎず、根本的な解決は成されずにきました。
今の経済指標などを見ていると、不動産不況が中国景気全体に悪影響及ぼしているようで、最終的に若者の2割が失業するという状況にも繋がっていると思います。不動産を支えてきたのは地方政府や民間の資金であり、中国の成長モデルと言えましたが、その資金が焦げ付いてきたことが経済活動全体に重くのしかかります。
世界経済にとっても、全体には堅調ながら、中国に影響を受けるセクターの不振が目立ちます。米国の企業業績も、米国の大型テック企業や金融企業の業績は堅調ですが、中国経済の低迷によって素材、エネルギー、化学、電機などは減益です。日本の貿易収支も全体には回復していますが、対中輸出は不振です。
さらに米中対立によって外資の中国投資が激減し、それがまた中国経済にマイナスとなる悪循環です。結果的に欧米の著名ファンドからの中国株離れも目立つようになっています。不動産の経営不安が経済全体を蝕むリスクを懸念した動きです。
もっとも、ここに来て利下げの実施や、多くの主要都市が住宅購入制限と住宅ローン規制を緩和すると発表してきました。また、中国人民銀行(中央銀行)、国家金融監督管理総局、住宅都市農村建設省が、今後数週間以内に不動産業界の活性化に向けた追加措置を発表するとしています。
この流れを受けて、8月終盤から9月はじめにかけて中国株は反発してきているわけですが、この流れが続くかどうかは、今後発表される政策次第となります。長期的には大きく下落してから大きな政策が出て、株価が反発したところは優良株の買いチャンスとなる可能性があると思いますが、そこに達するにはもう少し時間がかかるかもしれません。