米長期金利上昇加速、パウエルFRB議長の発言も要因か
米長期金利(10年債利回り)が、2022年10月の高値を越えようとしています。米国の政策金利は7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%利上げされ5.25~5.5%となりました。
とはいえ、インフレが抑制的となっていることから年内の追加利上げ観測は後退しています。米連邦準備制度理事会(FRB)は今後の利上げはデータ次第としており、金融市場ではさらなる利上げは織り込まれていないのですが、なぜ債券市場で長期金利の上昇が加速しているのでしょうか。
まず、利上げとともに行われているQT(量的引き締め)政策で、FRBが米債の巨大な買い手となってきた安心感が後退しています。加えて連邦政府の債務借入残高の上限適用が2025年1月1日まで停止されたことによる国債増発で債券市場の需給が悪化しているとの指摘もありますが(需給悪化=米債下落=金利上昇)、こうした需給要因ではなく、7月FOMCでのパウエルFRB議長の発言がきっかけで米長期金利の上昇が加速した、との指摘もあります。
パウエルFRB議長は会見で「米国が景気後退(リセッション)に突入する可能性は低い」と発言。以降、長短金利の逆転が米国のリセッションをもたらすと信じてきた向きが一斉に方針転換し、足元でリセッション警戒は著しく後退しています。景気後退が避けられるなら長期金利はあまりに低く抑えられすぎているのでは?ということで、低すぎる金利の水準訂正が起きているとの見方が大勢となっています。
景気後退どころか、米景気は非常に強いのも事実です。このところアトランタ連銀のGDP NOW(※)が話題となっています。アトランタ連銀の予想モデルによると7―9月期の米国の実質 GDP成長率予想は5.8%。景気は後退するどころかますます強くなっています。
ジャクソンホール会議では「Rスター(自然利子率)」に注目高まる
また、足元では8月のジャクソンホール会議に向けて金利が上昇している、との指摘もあるようです。2023年のジャクソンホール会議の全体テーマは「グローバル経済の構造的シフト」ですが、中でも「Rスター(自然利子率)」が議論されるのではないか、として注目されています。
自然利子率とは「景気やインフレを加速も減速もさせない需給が均衡する実質金利」のことで「実質中立金利」とも呼ばれます。この自然利子率はFRBが金融緩和度合いを評価するうえで重視する金利ですが、2023年第1四半期時点では0.5%と試算されています。
この自然利子率0.5%に長期的に想定されるインフレ率2%を足した2.5%が「中立金利」です。中立金利はFOMC参加者が想定する長期のFF金利見通しですが、仮にジャクソンホール会議で自然利子率が上昇している可能性に言及があるなら今後FRBの長期金利見通しも引き上げられる可能性がある、ということになるのです。
米国の長期金利が2022年高値を超えて上昇する勢いであることが、米ドル/円相場の上昇に繋がっており、8月17日には146円台後半まで米ドル高/円安が進行しました。米金利上昇がどこで頭打ちするのかが現在の金融市場にとって大きな注目となっています。 やはり、2023年もジャクソンホール会議に向けてマーケットのボラティリティが上昇しそうです。
※アトランタ連銀がGDPに関連するISM製造業景況指数、小売売上高、耐久消費財、個人所得・支出、国際貿易統計、住宅着工件数の6種類のデータが公表される度に最新のGDP予測値が公表される。リアルタイムの米国の経済成長率を捉えるとして注目度が高い。