◆ウルトラ警備隊が身に付けていた腕時計型通信機を「ビデオシーバー」というらしい。当時テレビを観て自分が大人になる未来にはそういう時計ができるのだろうと思ったりもした。こどもの頃に憧れた『ウルトラセブン』の世界が今まさに現実になろうとしている。

◆アップルは9日、新製品発表会で腕時計型ウェアラブル端末「アップルウオッチ」とスマートフォンの新モデルiPhone6、iPhone6プラスを発表した。新分野の製品は4年ぶり。ウェアラブル端末と、大画面モデルのスマホの同時発表で「技術革新の停滞」を指摘する市場の不安を払拭する狙いがあると新聞は報じている。だが発表日のアップルの株価は下げて終えた。期待外れと市場は受け止めたのか、それとも目先材料出尽くしの売りか、評価はまだ先となろう。

◆株価が上昇する局面もあった。それは「アップル・ペイ」の発表を好感したからだとの指摘があった。「アップル・ペイ」はiPhone6と連動する電子決済サービス。スマートフォンでの支払いが可能となる。「アップル・ペイ」の発表を好感して株価は一時上昇し、「アップルウオッチ」と新型iPhoneに失望して最終的に株価が下げたのだとすれば、市場はアップルに次のステージへ脱皮することを求めているのかもしれない。日本の製造業がモノ造りの「現場」にこだわっていた当時から、アップルは企画とデザインとマーケティングで勝負する会社になっていた。メーカーなのに自らはネジ一本作らないメーカーだ。

◆アップルのデバイスは世界中で売れてきた。iPhone、iPad、iPod。自らモノは作らなくてもモノを売って稼ぐのがアップルのビジネスモデルであった。それが今度は決済サービスに乗り出すとすれば、それは製造業から商業へ、メーカーからサービス業へと大きな変化となる。今回アップルが新製品発表会場に選んだのはサンフランシスコ郊外、クパチーノのアップル本社近くにある「フリントセンター」というホールだ。30年前、アップル創業者のスティーブ・ジョブズがアップル製パソコンの初代「マッキントッシュ(Mac)」を発表した場所である。この「大きな変革への一歩」を今は亡きジョブズ氏に見守っていてほしかったのかもしれない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆