◆今年も多くの映像作品を観た。劇場公開映画の年間のベストは、『ラストマイル』を挙げる。折しも本作で好演した火野正平の訃報が届いたばかりだ。社会問題に対するメッセージをうまくエンタメ作品に仕上げた佳作である。実はまだ見そびれている作品がある。『侍タイムスリッパー』という低予算映画だが、「カメ止め(カメラを止めるな!)」の再来との評判だ。近日中に観るつもりなので、もしかしたら年間ベストは入れ替わるかもしれない。

◆配信作品の年間ベストは『地面師たち』と『極悪女王』といったところか。両作品はともにNetflix制作のドラマである。Netflixがなぜヒット作を量産できるのかについては、すでに多くの分析があるので、それらに譲るが、僕がこの2作品を観て思ったのは、時代の本質と人間の業をついているということだ。

◆『地面師たち』にこういう台詞が出てくる。「人類の歴史は早い話、土地の奪い合いの歴史です。土地が人を狂わせるんです」。目を海外に転じればロシア・ウクライナ、イスラエルと中東諸国の戦闘がまた過激さを増してきている。それらは、もとをただせば土地の奪い合いである。土地を巡る人間の狂気が死人の山を築く。「地面師」は下劣な犯罪だが、海外で繰り広げられる戦争も、そのスケールが違うだけで、根っこのところは同じかもしれない。

◆『極悪女王』は一世を風靡した女子プロレスの世界を舞台にした青春群像劇だ。この作品自体は世界の紛争とは無縁だ。しかし、主人公ダンプ松本の評伝に重い言葉がある。「憎悪は差別を生む。差別はやがて戦争を呼ぶだろう。戦争なんてリング上だけでいい」(ダンプ松本『ザ・ヒール』平塚雅人著、小学館)。この言葉を聞かせてやりたい世界の指導者はひとり、ふたりではない。

◆地面師、女子プロレスラー、侮るなかれ。たとえ彼ら、彼女らが、「極悪」だとしても。本当の「ヒール」は別にいる。