◆最近は宝くじについて書いてきた。確率が計算できないひとに支えられて成り立っている公営のボッタクリ商売である。確率が計算できないというのも無理はない。なぜなら「確率」は難しいからである。「確率」が難しいというより問題はむしろ、取り扱う「数」があまりに大きいために全体像をイメージできないからではないか。
◆先週末に発表された米国の雇用統計で非農業部門の雇用者数が予想を大幅に下回った。22万人増の予想に対して蓋を開けたら14万人増。発表直後のマーケットは騒然となった。22万人と思ったら14万人。この数字だけを見れば、予想の6割程度にしか届かなかったのだから市場の動揺も無理はない。
◆しかし、米国の非農業部門の雇用者数というのは、ざっくり言って1億4000万人近い数字だ。22万人増も14万人増も誤差の範囲だろう。「数」があまりに大きいので全体観をイメージできない。数字をこう丸めたらどうだろう。1万4000人規模の大集会が毎月ある。事前の来場者数の予想は1万4022人だったが実際に来た人数は1万4014人だった。その差は8人。1万4000人規模の母数に対して8人の差だ。これで大騒ぎするのが雇用統計でのドタバタ劇。毎月の恒例行事である。
◆ドタバタ騒いでいる連中の言い分を聞いてみた。「『サプライズ』なんていいながら、本当に驚いているわけじゃないのさ。これは、ゲームのルールなんだよ。事前の予想と違う数字が出たら反応するという"決まり事"なんだ」。そうだったのか!?そっちのほうが驚きだ。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆