◆有楽町の駅でそのポスターを見た。頭をガツンと殴られたような衝撃だった。陳腐な表現だけど、その通りなのだから仕方ない。

「運命を狂わすような恋を、女は忘れられる」

一度読んだら忘れられない。コピーライター尾形真理子さんによる、ファッションビルLUMINE(ルミネ)のCMコピーだ。蜷川実花さんが撮る写真とのコラボレーションで、アート作品のような連作広告を創ってきた。

◆凡人にしてみれば、彼女らのような天才が羨ましい。きっと、ほとばしる才気で次から次へと傑作が沸いて出るに違いないと思ってしまう。ところが尾形さんは、コピーはひらめくものではない、という。ひらめくものではなく考えるものだというのだ。常に考え、検証を重ね、そうやって考えが煮詰まってコピーが完成するという。ノーベル賞を受賞した天才物理学者・湯川秀樹博士も「アイデアの秘訣は執念である」と言っている。

◆「僕は天才ではありません。なぜかというと、自分がどうしてヒットを打てるかを説明できるからです」 イチロー選手の言葉である。天才と呼ばれるひとにも(当たり前だが)努力はある。その努力をひとに見せないのが、天才が天才たるゆえんであろう。

◆何年か前、山手線の恵比寿駅でみたLUMINEのポスターがまだ目に焼き付いている。「恋が終わるなら、せめて夏がいい」 広告であるからには、いかに消費者の共感を得るかがカギになる。このコピーを読めば、「そうそう、その通り。チクショー!ルミネで服でも買おうか」という気になるではないか。「恋が終わるなら、せめて夏がいい」 そう、夏になると会いたくなるひとがいる。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆