◆ずいぶん昔のことだが、質実剛健で知られるドイツ車メーカーのCMのキャッチコピーで秀逸なものがあった。「100万円に安いと言えること。100円に高いと言えること」 

◆サービスであれ商品であれ、提供されるものの価値に対して支払われるおカネが「対価」である。金額の多寡ではなく、提供される価値に対して、「高い」のか「安い」のか。そのサービスや商品の「価値」が「価格」を上回っていれば100万円でも「安い」し、反対に「価値」が「価格」以下なら100円でも「高い」と言える。

◆昨日の話題(第53回 コスト)の続きである。投信の長期保有を促すため、「保有期間が長くなるほど1年当たりの顧客の負担率が軽減される」ことを説明するように求める金融庁の指針についてだ。100万円の元本に対して3万円の手数料を払う。年率にすれば3%と決して安くないが、手数料がかかるのは購入時のみだから、10年間保有すれば(計算上は)年率0.3%になるというわけだ。

◆この議論で足りないと感じるのは、販売手数料とは何に対する「対価」であるのかという視点だ。手数料は投信の募集に際する商品説明や買付手続きに関する手間賃として支払われるものであろう。それは販売会社の投信販売に携わる人たちのスキルであり労力であり経済的付加価値である。それらの「価値」は保有年数が長くなるにつれ減価するのだろうか。

◆投信は、一般的に、解約時に手数料はかからないが、株式や不動産は売却時にも手数料がかかる。それは情報提供も含め売却にかかるオペレーションを提供したことへの対価である。売却した資産を買い戻す期間を長くすれば、「年当たりのコスト」は安くなるか -そんな理屈があるわけがない。コストとは対価であり、それが高いか安いかは - すなわち投資家の負担の軽重は - あくまで価格が価値に見合うか否かで決まるのだ。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆