◆終戦直後、焼け野原の東京は上野の山に、浮浪者が集まって即席の賭場が開帳される。博奕をやるのだって道具が要る。麻雀牌、花札、トランプ。ところが終戦直後の浮浪者の集落にそんな気の利いたものはありはしない。そこにサイコロと丼(どんぶり)が現れれば、あっというまにチンチロリンの舞台装置が出来上がる。阿佐田哲也『麻雀放浪記』冒頭のエピソードである。
◆丼とは便利な器だ。チンチロの道具にも美味しい料理を盛る食器にもなる(本来は食器なんだから博奕に使っちゃだめだ)。天丼、カツ丼、親子丼。明日の土用の丑には鰻丼も数がはけるだろう。一説によると重箱に盛る鰻重よりも鰻丼のほうが旨いらしい。丼のふたが蒲焼をいい塩梅に蒸らすのだというのである。
◆いくら便利な器だといっても、こういう使い方はよろしくない。「どんぶり勘定」。昔の職人の腹掛の前についていた大きな物入れを「どんぶり」といい、そこにおカネを無造作に突っ込んだり出したりしていたことから、細かく収支を計算したり、記帳したりしないで、雑にカネをつかうことを「どんぶり勘定」という。
◆政府による2015年度予算案の編成作業が本格化する。首相は「経済再生と財政健全化を両立するメリハリのついた予算とするよう取り組む」と語った。財務省は概算要求基準で、各省庁に公共事業や文教科学などの裁量的経費を一律10%カットすることを求めている。今年度予算額の9割までしか予算要求を認めないということだ。
◆ところがこれには抜け道がある。成長戦略に関連したものは特別要望枠として、各省庁から約4兆円分の事業を募るのだ。この4兆円は経費削減の4兆円。でもこっちの4兆円は成長戦略絡みだから特別枠で4兆円。こうなるのは目に見えている。結局、各省庁から成長戦略にこじつけた「何でもあり」の要望が相次ぐだろう。
◆まあ、政府のどんぶり勘定は今に始まったことではない。最近の例では消費増税。増税分は社会保障目的に限るというのを建前に増税したが、その増税分を分別管理するわけではない。「歳入」として国の「どんぶり」に入ってしまえば同じこと。どんぶりに突っ込んだカネに色はないのだから。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆