バフェットによるオクシデンタル株の保有比率が25%超に

米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイ[BRK.B]は、6月26日から28日にかけて、米石油、天然ガス大手オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]の株式約214万株を1億2210万ドルで購入したことを明らかにした。

SEC(米証券取引委員会)への届出によると、バークシャーは26日に平均価格57.0143ドルで63万8,301株、27日に57.1694ドルで123万9,180株、28日に57.02ドルで26万769株を購入した。合計213万8,250株、平均取得価格は57.105ドルとなる。

バークシャーはここ1年、オクシデンタルの株価が60ドルを下回ると購入に動いており、5月末にも約466万株を追加取得していた。今回の買い増しによって、バークシャーの保有比率は25.55%まで高まった。なお、バフェット氏は5月6日に開催されたバークシャーの年次株主総会において、オクシデンタルの経営陣と事業を高く評価しているが、全てを買収する計画はないと述べていた。

5月6日付のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「バフェット氏が石油株に巨額投資 なぜ?石油株で大やけどした伝説の投資家バフェット氏、心変わりの理由とは」によると、バフェット氏は2008年と2014年に行った石油大手への巨額投資で立て続けに大きな損失を出したという。
 
2008年に石油大手コノコ・フィリップス[COP]の株式を大量に取得したが、世界経済がリセッション(景気後退)入りし、原油価格が急落する中、コノコの株価も下落した。その後、数年をかけて複数回にわたりエクソン・モービル[XOM]に投資を行ったが、ちょうど原油相場が最大級の落ち込みに突入しようとしていたタイミングであり、2014年には保有株の全てを手放す羽目になった。

バフェット氏は2015年に開かれた株主総会で「石油・ガス株を今後、そう度々買うことはない」と述べていたが、2019年第3四半期に初めてオクシデンタル・ペトロリアムの株式を購入、それ以来、同社の株式を度々追加購入し、保有比率を引き上げてきた。2015年の総会での発言から4年余り、なぜバークシャーはここまでエネルギー株へのアロケーションを高めたのか。

バフェットがエネルギー株に投資し続ける理由

前述のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「バフェット氏が石油株に巨額投資なぜ?石油株で大やけどした伝説の投資家バフェット氏、心変わりの理由とは」では、炭素排出量の削減に向けて野心的な目標を掲げる企業が増える中でも、世界は今後も大量の石油を必要とし続けるとバフェット氏が確信しているからだと指摘している。

バフェット氏自身も2022年、米国が石油脱却へと近づいているとは思えないと述べている。また、技術の進化により生産性が向上し、石油企業の多くは、原油相場が現在の水準を大きく割り込んでも、利益を確保できると語っている。例えば、オクシデンタルは原油がバレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できるという。

【図表1】バークシャーのキャッシュポジションとNYダウの推移(2023年3月末時点)
出所:各種データより筆者作成

バークシャーは2022年、FERC(米連邦エネルギー規制委員会)からオクシデンタルの普通株式を最大50%取得することを認められている。バークシャーの2023年3月末時点の現金残高は1306億1600万ドルと、2022年末(2022年第4四半期は1280億ドル)から20億ドル増加した。さらなる買い増しに必要な資金的余裕は十分に備わっている。

オクシデンタルはバフェットの「安定投資」の代表例

「オマハの賢人」と言われるバフェット氏の投資先を選ぶ基準は極めてシンプルだ。それはキャッシュフローに始まりキャッシュフローに終わると言っても過言ではない。このキャッシュフロー・マトリックスは縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営業キャッシュフローをとったものである。

投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すために使われる先行投資である。企業が成長している時期にはキャッシュが設備投資等に使われるためキャッシュが出ていき、基本的にはマイナスとなる。投資が進み、キャッシュが稼げるようになると、リターンが生み出され営業キャッシュフローがプラスとなる。

【図表2】キャッシュフロー・マトリックス
出所:筆者作成

多くの企業は営業キャッシュフローがプラスで投資キャッシュフローがマイナスであることから、以下の図の右下の領域に入る。その中でも稼ぎよりも投資の方が多い場合には「投資期①」に入り、稼ぎのほうが投資よりも大きければ「安定期②」 となる。

企業に投資先がなく、それまでに投資してきたものを売却するようになると、投資キャッシュフローはプラスに転じ、「停滞期③」となる。投資をしなければ自ずと稼ぎも減ってくるため、営業キャッシュフローが減少する「低迷期④」に入り、さらに稼ぎが減少すると「後退期⑤」となる。そして営業キャッシュフローがマイナスとなると「破たん期⑥」となる。

オクシデンタルのキャッシュフロー・マトリックスを確認しておこう。2019年にアナダルコ買収に伴う投資キャッシュフローがかさんだが、それを除いた年度はいずれも安定期にプロットされている。

【図表3】オクシデンタル・ペトロリアムのキャッシュフロー・マトリックス(2017年-2022年)
出所:決算資料より筆者作成

米国屈指の石油、シェールオイル生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行なっていること、さらにはバークシャーの傘下企業でも一部取り組んでいるCO2排出削減へ向けた新技術への取り組み等、バフェット氏が投資先に求める要素の多くをオクシデンタルは満たしている会社だ。

アップルの株価は年初から55%上昇、時価総額は初の3兆ドルに

以下は、5月15日に公開された2023年3月末時点のフォーム13Fを元に、バークシャーが保有する上場株式の保有状況をまとめたものである。保有割合の上位(評価額順)は、アップル[AAPL]、バンク・オブ・アメリカ[BAC]、アメリカン・エキスプレス[AXP]、コカコーラ[KO]、次いで石油会社2社が続いている。

【図表4】バークシャーが持つ上場株式の保有割合
出所:2023年3月末時点のフォーム13Fより筆者作成

バークシャーの上場株式ポートフォリオの約半分を占めるアップルの時価総額が終値ベースで初めて3兆ドルを突破した。6月30日の終値は前日比2%高の193.97ドルと、終値ベースの時価総額は約3兆510億ドルとなった。アップル株は2022年1月にも取引時間中に一時、世界の上場企業で初めてとなる時価総額3兆ドルを突破したが、すぐに利益確定に押されて終値ベースでの時価総額はわずかに大台を割り込んでいた。

3月末時点のバークシャーの保有株数は9億1560万株、評価額は1億5097億ドルだった。3兆ドルを突破した30日の終値で換算すると、1億7,760億ドルに増加している。

6月30日付の日本経済新聞の記事「Apple時価総額、終値で3兆ドル突破 世界で初めて」は、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めで米景気の先行き不透明感が増すなか、アップルの強固な財務や現金創出力が投資マネーを引き付けている面もあると指摘している。

フリーキャッシュフロー(純現金収支)は初代iPhoneを発売した2007年9月期から2022年9月期まで年平均20%超の成長を続けたという。また、3月末時点の手元資金(短期有価証券を含む)は総資産の16%に相当する558億ドルだとしている。さらには、2022年9月期は894億ドルと過去最大の自社株買いを実施し、今期も2023年3月までの半年間で390億ドルの自社株を取得した。積極的な株主還元も株価を押し上げているとのことだ。

【図表5】アップルの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成
【図表6】アップルの地域別売上高の前年同期比
出所:決算資料より筆者作成

5月に開催されたバークシャーの年次株主総会においてバフェット氏は、アップル株への投資割合が高いのではないかとの質問に対して、コングロマリットが保有している鉄道事業やエネルギー企業等、非上場企業を考慮すればアップルはバークシャーのポートフォリオの約6%に過ぎないと述べた。その上で、アップルのビジネスについて「われわれが所有するどの事業よりも優れた事業だ」と語った。

また、iPhoneが消費者の間で高い評価を得ている「並外れた製品」であるとし、アップル株を保有していることに大きな喜びを感じているとして次のように述べた。

アップルは、消費者が電話に1,500ドル、あるいは何であろうと相当額を支払っているという状況をうまく利用している。そして、同じ人が2台目の車を持つために35,000ドルを払い、2台目の車を諦めるか、iPhoneを諦めなければならないとしたら、2台目の車を諦めることもあるのだ。つまり、それは特別な製品なのだ。同社を100%所有しているわけではない。5.6%でも十分であり、10%ずつ株価が上昇していければ我々にとって喜ばしいことだ。

10%どころか、アップル株は年初から55%上昇している。バークシャーの第2四半期(4-6月期)の業績へも大きなプラス寄与が期待される。

石原順の注目5銘柄

オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]
出所:トレードステーション
シェブロン[CVX]
出所:トレードステーション
アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
バンク・オブ・アメリカ[BAC]
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス[AXP]
出所:トレードステーション