2024年からNISA枠が拡充されます。一般NISAは現在の年間120万円の枠が、新制度では360万円まで拡大されます。
運用会社は2024年の新NISAを見据えて動き始めている
既に投資を始めている人たちの投資額が拡大するだけではなく、これを機に投資を始める個人が増大することが予想されます。運用会社にとっては大きなビジネスチャンスです。
それを見据えて、運用会社の動きが活発化しています。
今月話題になったのは、直販投信会社セゾン投信で創業時から同社の顔として活動してきた中野晴啓会長が、親会社のクレディセゾンと営業方針で対立。その結果、実質的に解任された「事件」です。
その背景には、セゾン投信の残高に不満を持ち、2024年からの新しいNISAに乗り遅れる不安を感じたクレディセゾンの焦りが透けて見えます。
NISA口座は1つの金融機関にしか開設できず、直販にこだわっていると残高の拡大に制約があるとの判断があったと思われます。
また、大手運用会社の中には新NISAに向けて新たなファンドを投入する動きもあります。
インデックスファンドの競争が激化する
注目されるのが、大手運用会社の低コストインデックスファンドの新たな投入です。
業界大手の日興アセットマネジメントは、2023年4月26日に新規設定した「Tracers」シリーズを設定。野村アセットマネジメントも2023年7月から「はじめてのNISA」シリーズを設定運用するようです。
これらは、どちらも様々な投資対象のインデックスファンドシリーズですが、その特徴は、業界最安水準の低コストで参入することです。
ライバルとして想定しているのは、明らかに三菱UFJ国際投信 eMAXIS Slimシリーズです。三菱UFJ国際投信 eMAXIS Slimシリーズは、業界最低水準の信託報酬と品揃えの豊富さを武器に残高を拡大しています。
米国株に投資するインデックスファンドeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は約2兆円の残高となり、国内投資信託で最大規模にまで成長しました。
今回、日興と野村が設定するインデックスファンドは、eMAXIS Slimシリーズのコストに横並びするだけではありません。
日本を含む先進国および新興国の株式を対象として算出する「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)」(通称:ACWI、オルカン)との連動を目指すファンドは、どちらの会社も信託報酬が年0.05775%と三菱UFJ国際投信 eMAXIS Slimシリーズの半分まで下げています。
三菱UFJ国際投信は、今のところ対抗策を出していないようですが、コスト競争が再び激しくなることが予想されます。
投資信託のコストは信託報酬だけではない
とはいえ、投資信託のコストは信託報酬だけではありません。信託報酬以外のコスト含め、トータルのコストで比較をしなければ意味がありません。
また、インデックスファンドはファンド残高が大きくなれば、運用の安定性が高まり、管理コストが下がります。
eMAXIS Slimシリーズと、2023年に設定されたばかりの新しいファンドでは、残高が大きく違い、運用成果に違いが生じます。
また、今後の毎月の流入額も今までの顧客基盤も厚みがあるeMAXIS Slimシリーズが大きくなると予想します。そうなれば、残高の差はさらに広がります。
インデックスファンドは規模の経済が働く投資信託です。三菱UFJ国際投信の先行者メリットを逆転することは簡単ではないと思います。
もし、コスト競争に巻き込まれたまま残高が伴わなければ、収益を上げることができず、新規参入ファンドは長期的に償還するリスクが高まります。
投資信託の乗り換えは頻繁に行わない方が良い
コスト面で魅力的だとしても、投資信託の積立などで既に残高を積み上げている人は、保有ファンドを売却してスイッチしなければなりません。NISAのような非課税口座でなければ、評価益に課税されてしまうことになります。
このように考えると、新しいファンドの信託報酬だけに注目してファンドを乗り換えるのは賢明とは言えません。少なくとも当面は静観して、今まで通りのファンドを使って積立を続ければ良いでしょう。
運用会社が競争し、優良な投資信託の運用コストが下がるのは、個人投資家にとってはメリットです。
業界の健全な競争によって長期の資産形成にふさわしい骨太なファンドが残高を着実に積み上げ、日本人のお金の不安を解消する重要なツールになることを期待しています。