◆外資系の運用会社に勤めていたころ、部下からこう言われたことがある。「広木さんはいつも早くお帰りになりますよね。でも外資ってところはみんな遅くまで働くものなんですよ!」 外資系の会社というのは、部下が上司に付き合い残業を要請するのかと不思議に思った。周りのエクスパッツ(本国から来日して駐在している外国人社員)は6時を過ぎたら誰もオフィスにいないので、彼の言葉が尚のこと奇異に感じられた。
◆今にして思えば、自分が頑張っている姿をちゃんと見て欲しいというアピールだったのだろう。僕は彼にこう言った。労働時間の長さを誇ってどうする。問われるべきは成果である。成果が同じなら短い時間で達成したほうが、生産性が高い。外資系金融マンなら生産性の高さを競おうではないか、と。
◆成長戦略の主要課題のひとつが労働市場改革だ。なかでも目玉は労働時間の規制を外し、成果に給与を支払うホワイトカラー・エグゼンプション。だが、年収の高い人にはもともと関係ない話である。本来はこれに、長時間労働の規制と休暇の義務化をセットにした「三位一体の労働規制改革」を議論すべきであった。「労働時間を規制するルールを一体で作らないから、『残業代ゼロ』といった批判を浴び、残業代の話しか出てこない」と大田弘子・みずほフィナンシャルグループ取締役会議長は批判する。
◆日本マクドナルドのトップからベネッセのトップに転じた原田泳幸氏は、40歳でアップルに入社して以来、6時以降の残業をしたことがないという。ファーストリテイリングの柳井会長は4時に退社して夜は家でテレビを見る。情報収集などのためではない。暇つぶしだという。朝6時半から全力で仕事をしたら4時にはぐったりしてテレビを眺めるくらいの体力しか残らない。逆に夜もぐったりしないというのは昼間、全力投球していない証拠だと。僭越だが、朝4時起きで仕事を始め夕方4時半に退社する僕には、柳井さんのおっしゃることが極めてよくわかる。
◆こんな話が満載なのが楠木建先生の新刊『「好き嫌い」と経営』(東洋経済新報社)である。早くもビジネス書の売れ筋ランキングの上位に並んでいる。出版記念イベントのトークショーで、本日19時より有楽町の三省堂で楠木先生と対談する。御用とお急ぎでない向きは是非とも足をお運びください。但し、先生の本を購入された先着150名様限り。満場の折には悪しからず、また次の機会にお目にかかりましょう。
ストラテジスト 広木 隆