米国の政策金利は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%引き上げられ、5.0~5.25%となりました。声明文で「いく分の追加的な引き締めが適切である」との文言が削除され、利上げ打ち止めが示唆されたことで、2022年3月から始まった利上げのサイクルが終わった、というのが市場のコンセンサスとなり、市場の関心はいつ利下げが始まるか?にシフトしています。

米ドル安予想の増加、米ドル/円相場の動きとは

米国の利上げ停止、さらにここからは利下げ時期を模索するフェーズに入ったことで、米ドル高のフェーズは終了し、次は米ドル安になるという見方も増えてきました。

インフレ率の伸びの鈍化や債務上限問題など、米ドルにはネガティブな材料も多いのですが、米ドル/円相場は決して下落していません。3月24日の129.63円を起点に米ドル/円相場の下値は切り上がっており、むしろ米ドルは底堅く推移しています。これは一体どういうことなのでしょうか。

力強い米経済、インフレは高止まり

4月の米消費者物価指数(CPI)は予想5.0%のところ4.9%に鈍化していたとはいえ、インフレターゲットの2%から見れば、まだまだ高い水準です。また、4月雇用統計では失業率が過去最低にまで低下、労働市場の引き締まりは賃金上昇を持続させると考えられ、インフレは高止まりすると考えられます。4月の小売売上高も3ヶ月ぶりにプラスに改善しており、この状況での利下げは現実的ではありません。

金利先物市場の変化

「FED FUND FUTURES」金利先物市場では、これまで9月FOMCでの利下げ開始が織り込まれていましたが、小売売上高など力強い米経済指標を受けて、5月17日には利下げ確率より据え置き確率が上回ってきました。

さらに、6月FOMCでの0.25%の利上げ確率も30%を超えるところまで上昇しており、追加利上げの可能性も浮上しつつあります。では、本当に年内利下げが開始されるのでしょうか?

現状では11月と12月のFOMCで各々0.25%ずつの利下げが織り込まれています。この利下げの折り込みが後退する過程で、3月の米銀破綻連鎖で急低下した市場金利の水準訂正が起こる可能性があり、金利上昇に伴って米ドルが上昇してきたと考えられます。

日銀の金融緩和は当面続く

日本の金利は未だ動きません。4月に就任された植田日銀総裁の新体制では、YCC(イールドカーブ・コントロール)の変動幅拡大、あるいは解除に踏み切るのではないかという観測が高まっていましたが、植田総裁は黒田前日銀総裁の緩和路線を引き継ぐスタンスを表明、早期の緩和解除観測は急速に後退しています。

また、サプライズを演出するような政策変更のあり方には否定的で、植田日銀体制下での政策変更決定には道筋が示されるだろうというコンセンサスが醸成されつつあり、足元での政策変更リスクは高くないという安心感から、円売りトレンドが形成されつつあるように見えます。

スワップコストは米ドル/円の売り手にとっては大きな負担に

日米金利差が5%にまで拡大したことで、米ドル/円ロング(買い)では高いスワップ収入が魅力となっていますが、ショート(売り方)コストは大きな負担です。スワップ支払いコストがかさみ、米ドル/円相場が大きく下落し、キャピタルゲインがないとなると長期に売りを継続するトレードはやり難いでしょう。

リスクオフ相場を見込んで米ドル/円ショートが構築されたとしても、市場が安定してくればショートポジションは買い戻され、結局は金利差に沿った米ドルロングが構築される地合いとなっています。2023年の米ドル/円相場は急落があっても円高のトレンドは長続きしないのではないでしょうか。