日経平均は今日の寄付きでバブル崩壊後の高値を更新した。象徴的だったのはTOPIXが33年ぶり高値をつけた日付である。5月17日。20年前のその日は、りそな銀行への公的資金注入が決定した日である。その歴史的解釈を巡っては諸説あるが、少なくとも僕は、それをもってして銀行の不良債権処理に目途がついた証であり、同時に80年代バブル崩壊とそれに続く日本版金融危機の清算が終焉したことの象徴であると捉えている。
なにより株価がそれを証明している。1989年末に史上最高値をつけた日経平均は1990年に入ると坂を転がり落ちるように暴落していった。その長い下り坂の底が2003年4月末。りそな銀行に公的資金が入る直前だ。株式市場はすでに銀行への公的資金注入不可避と読んでいた。そしてその意味は上述の通りと認識したのだろう。だからこそ、このタイミングで15年に及ばんとする長期下降トレンドの大底をつけたのだ。元号で言えば平成15年のことだ。だからこうも言える。平成の30年間のうち、半分が昭和末期のバブルの清算に費やされたのだと。失われた10年、失われた20年と巷間でよく言われるが、株式相場については「失われた15年」であった。(注:厳密には14年である)
その「失われた15年」にピリオドを打った日の20年後に、TOPIXは1990年8月の水準まで戻ったのである。なんとも感慨深い。ちなみに僕がファンドマネージャーとしてのキャリアのスタートを切るべく当時の富士銀行に入行したのが1990年9月。だから運用者時代の僕はTOPIXのこの水準を見たことがなかったということになる。当然、僕より若い多くの市場関係者にとっては「未体験ゾーン」だろう。さぞや「高所恐怖症」が増えているかと思いきや、そうでもないかもしれない。
先日、出張で訪れた地方銀行の運用担当の方のお話を聞いてびっくりした。「僕が相場をやり始めてからの鉄則は『下げたら買い』です」とその若い行員は言った。年のころは30歳代前半か。確かに、10年前のアベノミクス相場が始まってからというもの、日本株は右肩上がりだ。下げたら買いですべて報われてきた。僕らくらいの中高年(いや初老というべきか)になると、「戻ったら売り」という人が多いが、若いひとは右肩上がりの日本株しか見てきていない。株は上がるもの、という感覚が普通なのだ。
さすがにチャートをはじめテクニカル的には過熱感もあり、早晩一服するだろう。酒田五法では「三空に買いなし」というが、三空どころか窓を4つも空けている。25日線乖離率は6.4%だ。
しかし、バリュエーション的にはまったく割高感はない。先週のレポートでEPS低下=PER上昇に言及したけれど、決算を締めてみればプライム市場全体としては微増益。日経平均採用銘柄でも最終利益は前期実績36兆円、今期予想36兆円でまったくの横ばいとなった。
損保3社が本日決算発表なので、東証33業種から保険を除く32業種中、21業種が増益、11業種が減益と倍ほどの開きがある。前回述べた通り、海運と商社の減益が他の増益を相殺するほど大きい結果だ。主力の自動車、電機、機械などはしっかりと増益となる。
好業績、金融緩和、円安、マイルドなインフレ、政治の安定、良好なマクロ環境、来年から始まる新NISA制度、そしてなにより日本企業の経営が大きく改善する機運‐日本株の買い材料は数多くある。それをよく認識している外国人の買いが途切れない。昨日発表された5月第2週の投資部門別売買向によると、海外投資家は7週連続の買い越しだった。7週連続の買い越しは2020年11〜12月以来、約2年半ぶり。累計の買越額は2兆9000億円弱に達している。
バブル崩壊後の高値を抜いた日本株に、もはや残る壁はただひとつ。史上最高値の更新だ。日経平均で言えば3万8915円。まだまだ、ずいぶんかかると思われるだろうか。しかし、そんなに遠い話ではない。人間の直感は正しく数値を把握できないので、視覚に訴えよう。「率」で考えることが重要なので、日経平均のチャートを対数目盛で表示する。もうあとわずかだ、ということが分かるだろう。史上最高値から最安値までの4分の3はすでに取り戻しているのだ。
史上最高値3万8915円は今日の9時4分につけた3万924円からあと8000円もない。率にすれば25%の上昇で届く。繰り返そう、そんなに高い目標ではない。率にすればあと25%。年初からここまでの日経平均の上昇率は20%である。