先週の振り返り=米景気の先行き懸念が拡大

先週の米ドル/円は、週初には前週までの米ドル高値を更新し、134円近くまで上昇した。しかしその後は、発表された米景気指標が相次いで予想より弱い結果だったことを受けて、米金利低下再燃となったことに連れる形で米ドル下落へ転換しました。

ただ、4月7日に発表された米3月雇用統計がほぼ事前予想通りの結果だったことから、5月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ観測が再燃。米金利が上昇し、米ドルも132円台まで反発しての越週となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2023年2月~)
出所:マネックストレーダーFX

景気指数、雇用関連の指標悪化で米景気への不安アップ

改めて、先週発表された主な米経済指標について見てみましょう(図表2参照)。ISM(米供給管理協会)の製造業、非製造業の景気指数はともに予想以上の悪化となりました。また、いくつかの雇用関連の指標が悪化したことも、米景気への不安を強めることになったようです。雇用の悪化が広がると、米GDPの中で圧倒的なウェートを占めている個人消費が落ち込むことで、いよいよ景気が急減速に向かうことへの懸念が高まるためでしょう。

【図表2】主な米経済指標の結果(4/3~7)
出所:マネックス証券「経済指標カレンダー」

こうした中で、4月7日に発表された雇用統計は、ほぼ事前の予想通りの結果となりました。これにより、景気への先行き懸念が拡大する中で、5月FOMCでも利上げを見送るとの見方が強まっていたところから、改めて0.25%の追加利上げ予想が優勢となったようです。このため、一時は3.7%程度まで低下していた金融政策に敏感に反応する米2年債利回りも4%近くまで反発し、米ドル/円もそれに連れる形で132円台を回復しました(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と米2年債利回り(2023年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

今週の注目点=米CPI発表、植田新総裁の会見など

以上、先週の主な動きについて振り返ってみました。金融システム不安を受けた米景気の先行きへの懸念は、4月7日の雇用統計発表により一息つきましたが、まだ払拭されたと言えるほどではないでしょう。このため今週も、先週に続き米経済指標の結果に一喜一憂といった状況が続く可能性が高そうです。

依然と根強いインフレ懸念と、景気の先行き悪化への不安

そういった中で特に注目されそうなのは、4月12日の米3月CPI(消費者物価指数)、そして13日の同PPI(生産者物価指数)といったインフレ指標でしょう。そして14日に予定されている小売売上高、鉱工業生産指数などの発表にも注目が集まりそうです。

CPIは前年比の上昇率が前回の6%から5.2%へ大きく低下するといった予想になっていますが、一方でコアのCPIは前回の5.5%から5.6%へ上昇すると予想されるなど、インフレへの懸念は依然として根強い状況が続きそうです。ただその一方で、景気の先行き悪化への不安もくすぶっているため、その中で5月FOMCの利上げの有無が、目先的には米ドル/円の行方を決める手掛かりとなりそうです。

米株価に大幅下落の兆しなし、早期大幅利下げも現実味はなしか?

ところで、米2年債利回りは先週末の段階でも4%程度での推移となっており、現在5%の政策金利FFレート誘導目標上限を1%程度と大きく下回っています(図表4参照)。これは、早期にFFレートが大幅に引き下げられることを先取りするところまで米2年債利回りが低下しているという意味になるでしょう。

【図表4】米2年債とFFレート(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このような米2年債利回り低下が示唆する早期の大幅利下げが現実味を帯びるためには、基本的に景気を先取りして動くとされる株価の大幅な下落が必要ではないでしょうか。その株価は、NYダウなどで見ても、先週こそ一時下落する場面もありましたが、なお「大幅な下落」に向かう兆しは見られません(図表5参照)。

【図表5】NYダウの推移(2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

目先的にFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げが終わるということとは別に、早期に大幅な利下げに向かうということは、このような米国株の状況が変わらないとするなら、現実味を帯びることはないのではないでしょうか。そうであれば、それを先取りする形で大きく低下した米2年債利回りは「下がり過ぎ」ということで、いずれ修正に向かうことになるでしょう。

植田新総裁による記者会見後の「円金利上昇=円高」に注意

以上、米経済関連を中心に述べてきましたが、今週は10日に日銀の植田新総裁の記者会見が予定されているので、それについても最後に少し確認してみたいと思います。このところ、金融システム不安を受けて大きく低下した米金利を尻目に、日本の10年債利回りは再び日銀が上限としている0.5%に接近するところまで上昇しました(図表5参照)。いかにも、新総裁の下での金利上限の拡大ないし撤廃を意識した動きと考えられます。その意味では、植田総裁の記者会見を受けて、「円金利上昇=円高」がどのように反応するかも1つ注意が必要でしょう。

【図表6】日米の10年債利回りの推移(2022年12月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上を踏まえると、今週はまだ大きく米ドル高・円安へ戻す可能性は難しいかもしれません。このため今週の米ドル/円は129~134円中心での荒っぽい展開を想定したいと思います。