先週の動き:米国での銀行不安は沈静化し売りが先行するもニューヨーク金先物価格(NY金)は再び2,000ドル突破、国内金価格は年度末要因の円安も重なり過去最高値を更新続く
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、米国での銀行不安に対する過度の警戒が後退する中で、週初売りが先行し節目の1,950ドル割れを見ることになった。しかし、押し目買い意欲も強く、週後半には新たな手掛かり材料がないにも関わらず、再び2,000ドルを超える展開となった。
2020年8月に初めて2,000ドルを超え、その次は2022年3月にもこの水準を超えたが、前者は新型コロナパンデミック、後者はロシアによるウクライナ侵攻と、いずれもイベント含みの急騰に沿って突破したものだった。
今回の上昇については、米銀波乱をきっかけにしたものではあるが、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルの終了接近など、金融環境の変化を映したという点で、やや性格を異にしていると捉えている。
週後半の2,000ドル接近から突破には、先物市場特有の限月(contract month)交代と呼ばれるNYコメックスの基準となる取引(active contract month、中心限月)が3月29日に2022年4月物から2022年6月物に移行しており、そのプレミアムによる押し上げ効果も水準上昇に繋がった。
ただし、3月30日はこうした特殊性を考慮しても、それ以上の上昇が見られたことは、6月物へ移行した(roll over)取引が多かったとみられる。特段の買い手掛かり材料がない中で乗り換えの多さ自体が上昇要因とも言え、先高感を表すことによる。それでも2,000ドル超では利益確定の売りが控えており、結局、最終的にはこの水準を維持できずに終了となった。
週末と月末、さらに四半期末が重なった3月31日のNY金の終値(清算値)は1,986.20ドルとなった。週足は2.40ドル、0.12%と5週連続の上昇となった。月足は149.50ドル、8.14%の上昇で2020年7月(10.3%)以来の上昇率となった。
さらに四半期でみて8.76%と2四半期連続の上昇となった。先週のコラムでは、金融不安の鎮静化を読みNY金の想定レンジを1,955~1,990ドルと想定したが、実際には1,945~2,005ドルとなった。コアレンジは1,975ドルを挟んだ水準で、ほぼ想定通りだった。
一方、国内金価格は日本が年度末ということ、また米ドル/円相場がやや円安に振れたこともあり、過去最高値の更新が続いた。3月31日には、一時8,463円と3月22日の8,463円を上回り高値を更新。2022年央以来の歴史的高値の更新が続いている。先週のコラムでは想定レンジを強めに8,150~8,400円としていたが、実際には8,204~8,463円と、さらに上回った。
3月初めにかけて150ドルほどの値下がりに見舞われたNY金
ここで、四半期末を終えたNY金の動きを振り返ってみたいと思う。
NY金は2022年11月3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて、次回会合以降での利上げ幅縮小が示唆されたことをきっかけに、反転上昇に転じた。その上昇は、年明け2月1日のFOMCに至るところまで、調整らしい調整局面もない状況で3ヶ月にわたり続いた。終値(清算値)ベースでみて、この間の上昇は311ドル、19%に及ぶことになった。
この上昇が第1幕とするならば、第2幕に至るまでの展開が、幕間つなぎというには、あまりに劇的だった。
2月3日の米雇用統計のサプライズ(雇用者増加数50万人超)以降、月末のPCEコアデフレーター(米個人消費支出価格指数コア指数)の上振れに至るまで、いずれも予想を超える堅調さを見せる米国指標に、NY金は150ドル幅で売られることになった。
3月7日にはパウエルFRB議長が議会証言にて、次回3月FOMCでは利上げ幅の再拡大の可能性すら否定せず、NY金は1,820ドルに沈んだ。6週間前の会合では、「ディスインフレのプロセスが始まった」とハト派然で話した同じ人物の言葉とは思えなかった。その時NY金は1,975.20ドルまで駆け上がったのだった。しかし、事態はそれほど劇的かつ流動化していた。
3月、にわかに浮上した銀行不安と「質への逃避」
相場とはなんとも皮肉なもので、その週末3月10日に米中堅銀行シリコンバレー銀行(SVB)含む2行が破綻することになった。
にわかに巻き起こった銀行不安の嵐は、スイス金融大手クレディ・スイス・グループ(CS)に及び、同行株価と信用状態を示す指標(CDS)も大きく悪化。結局、スイス政府とスイス中央銀行(SNB、スイス国立銀行)の主導で同国最大手行UBSによる救済合併が発表されたのが3月19日のこと。CSの財務内容に対する詳細な調査の時間もないまま、緊急避難対応で発表されたUBSによる合併には、将来の損失浮上に対するスイス政府による支援保証が付けられた。
このような、にわか仕立ての日曜日の取りまとめが慌てぶりを表すが、週明け3月20日の市場はNY時間外のアジア、欧州の時間帯から金融市場では「質への逃避(Flight to Quality)」の動きが見られ、比較的安全とされる米国債が買われるとともに、信用リスクのないアセット・クラスとしてゴールドにも資金が流入した。
こうして3月20日ロンドン午前の時間帯には、一時2,014.90ドルと2022年3月10日以来の高値を付けることになった。劇的に始まった第2幕は、結果的にはイベント含みの上昇となった。
今週の展望:米雇用統計など重要指標続く。NY金は1,950~2,005ドル、国内金価格は8,250~8,500円を想定
今週は、復活祭前のグッドフライデーの祭日で4月7日は英米金融市場が休場となるほか、ユダヤ教の祭日も重なり、金市場の取引高も低下する可能性がありそうだ。
ただ、米国関連の重要指標が予定されている。米国の3月雇用統計、ISM製造業・非製造業景況指数、2月JOLT 求人件数などに注目が集まる。また、オーストラリア準備銀行(中央銀行)が金融政策決定会合を開くが、利上げ停止に踏み切るか否かが注目される。
次回5月FOMCの金融政策決定の鍵を握る最新の雇用統計に特に注目が集まる。中堅銀行2行の破綻は、当局の支援により一旦沈静化した。しかし、最終的に信用危機につながるかどうかは現時点ではまだ定かではなく、依然注視が必要となっている。
クレディ・スイスやUBSは年次総会を開催する予定で注目材料となる。米雇用統計では、雇用者増加数の市場予想は24.0万人と2月の31.1万人からはやや低下する見通しだが、この時期に20万人超は堅調と言えるもの。市場はインフレ関連で、平均時給の伸びに注目することになる。
こうした中でNY金は1,900ドル台後半での滞留が続くとみられる。レンジは1,950~2,005ドルを想定している。国内金価格に関しては米ドル/円相場が130~134円程度の値動きと読み、8,250~8,500円と最高値更新を続けつつ高止まりとなりそうだ。