今回は、このところ株式分割の発表が相次いでいる点について解説していきます。

ファーストリテイリングを始め、優良企業が続々と株式分割実施へ

「ユニクロ」はファーストリテイリング(9983)が築き上げた、世界で戦うことのできる数少ない日本発のアパレルブランドです。小売セクターでは時価総額がトップで、この20年間の成長力は言うまでもありませんが、ファーストリテイリングに投資しようと思っても、1株が8万円で、100株で800万円もすることから、普通の人にはなかなか手が出ません。そんな状態が長く続いていました。

そのファーストリテイリングが2023年2月末に1対3の株式分割を実施しました。「1対3」の分割とは、それまでの1株を3株に細かくすることを指します。1株が2万円台になったので、まだかなり値が張るとはいえ、それでもわずかながらになりますが、以前よりはファーストリテイリングへの投資の敷居が下がったのではないでしょうか。

この他にも2023年3月末には、工業用ロボットで世界トップのファナック(6954)や、シリコンウエハーで世界首位の信越化学工業(4063) 、さらに「東京ディズニーランド」で知られるオリエンタルランド(4661)が、それぞれ「1対5」の株式分割を予定しています。

半導体製造装置では世界有数の東京エレクトロン(8035)も、同じく半導体の製造工程で欠かすことのできないダイシングソーで世界首位のディスコ(6146)も、3月末から4月にかけて「1対3」の株式分割を行います。

東京エレクトロンは26年ぶりの株式分割です。ファナックは実に37年ぶりの分割で、ちょっとした株式分割ラッシュの様相となっています。なぜこれほどまでに東証プライム市場の主だった企業が集中して、株式分割を行っているのでしょうか。

株式分割が増えている背景とは

その理由の1つに、東京証券取引所が上場企業に対して、1単位(100株)の投資が50万円程度に収まるように株式の取引金額を下げる要請をしていることが挙げられます。それには株式分割を行うことが最も近道だからです。

株式分割とは、企業が発行済み株式を一定の割合に分割して株数を増やす行為です。りんご1個を6~8つに切り分けるようなイメージです。東京エレクトロンが「1対3」の株式分割を行うということは、100株を保有している株主の持ち分はそれまでの3倍の300株になるということです。

その際に株主には、それまでの1株に対して2株が無償で割り当てられ、分割した後は合計で3株を保有することになるわけです。

分割の前と後では、株主として保有している東京エレクトロンの価値は変わらないため、分割前の株価が仮に3万円だったとすれば、分割後は3分の1の1万円に自動的に株価が下がります。

したがって株式分割の前と後では、株主として保有する価値は変わらないことから、分割によって株価が変動することは理屈の上ではあり得ません。株式投資の教科書にはそのように解説されています。

しかし実際のマーケットでは、株式分割を発表した企業の株価は大きく上昇することがあります。本来であれば分割後の理論的な株価(上のケースでは1万円)に機械的に落ち着くものですが、マーケットではそうはならないことが多く、理論上の値段よりも値上がりして(上のケースでは1万2,000円から1万5,000円くらい)取引されます。もちろんそうならないこともあります。

株式分割発表直後に株価が大きく値上がりする理由

では、なぜ理屈の上では上昇しないはずなのに、実際には分割発表直後に株価は大きく値上がりすることがあるのでしょうか。

これは経験則からによるものだと考えられます。すなわち、「過去に偉大な上昇を成し遂げた成長企業は、ほとんどすべて大幅な株式分割を行っている」という市場参加者の経験があるからではないか、と思います。

10年くらいの時間をかけて株価が10倍を超えるまでに大きく値上がりした銘柄、いわゆる「テンバガー」は、レーザーテック(6920)、神戸物産(3038)、エムスリー(2413)、ジャパンマテリアル(6055)、MonotaRO(3064)、ベネフィット・ワン(2412)などを挙げることができます。

これらの銘柄はいずれも株価が大きく値上がりする過程で、ほとんど例外なく大幅な株式分割を行っています。

レーザーテックは2006~2020年にかけて「1対2」の株式分割を4回行いました。ベネフィット・ワンは2017年と2019年に「1対2」の分割を2回行っています。

株式分割を実施することによって、個人投資家にも手がけやすい水準まで株価が下がり、市場での流動性が増して投資家層に厚みが増します。それによってさらなる投資資金を呼び込むことができ、しっかりと増資も実施して、企業として利益成長と株価の上昇をダブルで勝ち取ることに成功したのです。

その結果として投資家の間では、「大幅な株式分割を行う企業は、成長株として評価し得る」という認識がいつの間にか浸透していったのではないでしょうか。株式分割を発表するだけで未来への成長期待がぐっと増し、それにつれて株価も勢いよく上昇するのではないかと考えられます。理屈として正しくはないのかもしれませんが、当たらずとも遠からずで、どうもそのように思えてなりません。

株式分割で株価上昇が見込まれる値がさ株を見極める

先も触れましたが東京証券取引所は、投資家が最低株数を購入する際の投資金額が50万円程度に収まるように、株式分割を実施することを上場企業に対して奨励しています。それが最近の株式分割がラッシュの様相を帯びている真相です。

そうであれば、これから株式分割を発表しそうな企業を先回りして投資しておくことは、ある意味では有効な投資手法と言えそうです。それには株価の絶対水準が高い、いわゆる「値がさ株」に的を絞るのが定石です。

現時点で株価が1万円を越えているのは、SMC(6273)、シマノ(7309)、オービック(4684)、ヒロセ電機(6806)、東映(9605)、富士通(6702)、HOYA(7741)、ニトリホールディングス(9843)、しまむら(8227)などです。これらが「株式分割が期待される値がさ株」という立ち位置になるでしょう。

値がさ株は投資金額が高くて手が出せないという方には、単位未満株として購入することがお手軽でお勧めです。

株式投資は定められた単元株で購入するのが原則です。通常の単元株は「100株」ですが、証券会社によっては1株、10株など、単元株未満の少ない株数でも「単位未満株」(端株、はかぶ)として売買を取り次いでいます。