先週の動き:リッセッションからノーランディングまで振れたセンチメント、ニューヨーク金先物価格(NY金)は3週連続で下落

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週末2月17日の終値(清算値)が1,850.20ドルで終了。週足で24.30ドル、1.3%安と3週連続で下落となった。

週初こそ前週と同じ水準(1,870ドル前後)で推移したNY金だったが、2月14日に発表された1月米消費者物価指数(CPI)が引き続き鈍化を示したものの、伸び率が予想を上回ったことをきっかけに、下値を探る動きに転じた。

その後も1月の小売売上高がほぼ2年ぶりの大幅増になるなど、ここまでの歴史的な引き締め環境にも関わらず、米国経済の堅調さを示す指標が続いたことから、一時は年初からの上昇幅をすべて失う1,827.70ドルまで、売られることになった。

さらに米連邦準備制度理事会(FRB)高官による、さらなる利上げを求める発言が連日にわたり続いたことも、米ドルと米金利を押し上げNY金の売り要因となった。

年初1月の時点では、市場は米景気後退(リッセッション)入りを予想して、米ドルは売られ、米金利も低下していたが、ここにきてセンチメントの変化のスピードと度合いが大きく、インフレが低下する中で景気も緩やかに減速するという、FRBが望むソフトランディングが見通せる、という見方が増えている。

そればかりか、ここにきてFRBが景気抑制的な政策を推進する一方で、経済成長は接地(着陸)せず飛び続ける(経済成長が持続する)「ノーランディング」との見方まで飛び出している。とはいえ、これにはさすがに楽観的過ぎるという否定発言も多い。

こうした環境の中で2月17日には、米10年債利回りがNY時間外(ロンドンの時間帯)に一時3.922%と2022年11月半ば以来の水準に上昇。金融政策の動向を映しやすい、2年債利回りも一時4.719%と、やはり2022年11月半ば以来の水準まで上昇した。

この動きに合わせるように米ドルも買われ、ドル指数(DXY)は一時1月6日以来の高値となる104.667まで上昇。NY金はNY時間外のアジアからロンドンの時間帯に水準を切り下げながら相場は進行し、一時1,827.70ドルと年初来安値を付けることになった。

NY時間に入ると、週明け2月20日月曜日がプレジデンツデ―の祭日で3連休となることもあり、ポジション調整(持ち高調整)の売買から米ドルも米債利回りも軟化するに従い、金市場では買戻しの動きが見られ、終盤は1,850ドル台を上回ることになった。

先週のコラムでは、NY金について売り優勢の流れではあるものの、押し目買い意欲の強さについても解説したが、2月17日の値動きはそれを感じさせるものだった。先週は想定レンジを1,850~1,890ドルとしたが、実際には1,827.70~1,881.60ドルとなった。すでに述べたように景気見通しが楽観に傾く中で、1,827.70ドルまで下振れたものの、週末終値は1,850.2ドルとなった。

なお、先週のコラムではレンジを7,750~7,900円と想定した国内金価格だが、7,804~7,937円と想定通り円安により、NY金の下げ幅が相殺されることになった。週足では43円、0.54%の上昇となった。

米利上げ期間の延長を示唆するFRB高官の発言、米金融大手は年内にあと3回の利上げを予想

先週も連日にわたり、FRB高官の発言内容が伝えられた。サプライズとなった1月の米雇用統計以降、その結果を巡り、一時的なデータの上振れなのか解釈に迷う市場は、FRB関係者の発言内容に耳を澄ますことになった。結果は報じられたように、多くがインフレ水準は高すぎるとして、利上げの継続を求める内容となった。

市場の関心が向けられるのは、やはりタカ派と目される高官の発言内容となる。その代表的な2名の高官の発言が2月16日にあった。

まず、この日の講演でクリーブランド連銀のメスター総裁は、経済動向次第では利上げ幅を0.25%から再び拡大させる可能性があると明言した。利上げ幅の0.25%への縮小を決めた2月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.5%の利上げを主張したことも明らかにした。

同じ日、セントルイス連銀のブラード総裁は、講演後に記者の質問に答え、「インフレとの闘いは長期戦で2023年を通じて闘う決意(引き締め継続)を示し続ける必要があるだろう」とした上で、引き締め環境の継続でディスインフレ(物価が上がりにくい環境)を維持できるとした。

また、同総裁も2月のFOMCにて0.5%の利上げを支持したと明かした。両総裁ともに、2023年のFOMCでの投票権は持っておらず、2月の会合では全会一致で0.25%の利上げが決まった経緯がある。

私が注目したのは、週末2月17日にナッシュビルで開かれた、テネシー銀行協会の会議で講演したボウマンFRB理事の発言だった。先週それまでに発表された指標を受け、まず「これまでの措置が定着していないか、効果を発揮していないことを示すデータが続いている」とした。

その上で、「政策金利が十分に制約的な水準に達するまで利上げを継続しなければならない。まだ、そこまで到達していない」とした。利上げ幅の再拡大には触れず、継続利上げの必要性を主張したが、2022年来の歴史的な引き締め策について、「定着していないか効果を発揮していない」と明言したことが個人的には印象的だった。これがパウエルFRB議長を含め、FRB理事間のコンセンサスになっている可能性がありそうだ。

なお、2月17日に米金融大手ゴールドマン・サックス(GS)とバンク・オブ・アメリカ(BofA)は、高インフレ持続と底堅い労働市場を示す指標を受け、FRBが年内にあと3回、それぞれ0.25%ずつ金利を引き上げるとの予想を発表した。

2022年に激増した中国の金(ゴールド)輸入、その背景にある中国人民銀行の影とは

足元の金市場でのホットな話題が、中央銀行による買いが2022年に激増したことだ。金の国際的調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC、本部ロンドン)の調べでは、通年で1,136トンとデータを遡れる1950年来で最大となった。

2022年下半期に急増し、862トンもの増加となった。しかも現時点で購入国が不明となっている。これは国際通貨基金(IMF)への届け出が為されていないことによる。

このIMFへの届け出で、ここにきて注目されているのが中国人民銀行(中央銀行)だ。2022年末になり、11月中の金準備が32トン増加したことを発表。発表はその後、毎月続き12月も30トン増、さらに2023年1月には14トンほど増加したと発表した。

発表は2019年9月末を最後に途絶えていたが、なぜか復活し、ここまで3ヶ月続いている。中国人民銀行の1月末時点での保有量は2,024トンほどとみられる。2019年9月末時点からは76トンの増加となる。

その一方、中国税関総署が発表した2022年の金輸入金額が766億ドルに上っていることが、2月7日に明らかになった。2022年の金価格の動向から私の試算(ロンドン現物価格の年平均価格)では、その数量は1,330トンほどにもなる。ところが、WGCが1月末に発表した最新の需要統計によると、2022年の中国の需要は789トンで輸入数量と大きな食い違いがある。

この誤差をどう解釈するか。輸入され余ったゴールドはどこに行ったのか。私の推論では、その多くは大手4行の国有商業銀行に保管されているものと思われる。おそらく、決算時には販売用の在庫として計上されるだろう。そして将来、多くは中央銀行である中国人民銀行に移管するのではと思われる。

別のデータでは、2022年末時点で中国が保有する米国債は8,670億ドルと前年比20%ほど減っている。外貨準備に占める通貨ポートフォリオの見直しと言えば聞こえはいいが、米国債の一部をゴールドに移しているものと思われる。

2022年、国際社会はロシアに対する制裁で揺れた。地政学的構図の変化が、中国の金輸入急増の背景にあるとみられる。遅かれ早かれ、中国人民銀行の発表に国際金市場が揺れるのではないかと思われる。もちろん、個人的な推論である。

今週の展望:PCEコアデフレーターやFOMC議事要旨に注目。NY金1,820~1,870ドル、国内金価格は7,850~8,030円を想定

今週は2月24日に発表される、1月の個人消費支出物価統計(PCEデフレーター)に注目したい。中でも、FRBが特にインフレ指標として注目している、商品とエネルギーを除いたPCEコアデフレーターが注目となる。

12月から伸びが鈍化することが予想され、インフレ鈍化基調を示すとみられるものの、1月のCPIや生産者物価指数(PPI)同様に、予想を上回る可能性があり、要注意となる。

2月22日には1月31日~2月1日開催分のFOMC議事要旨が公開される。予想通り、インフレ鈍化を受けて利上げペースを0.25%に落としたが、先週のFRB関係者の発言からは0.5%への再拡大の主張をしたことが明らかになっており注目される。

今週は連休の関係でNY市場は4営業日となるが、1,850ドルを挟んだ、いわゆる根固め的な値動きとなりそうだ。NY金のレンジは1,820~1,870ドル、国内金価格7,850~8,030円のレンジを想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券