◆今年の流行語大賞にもノミネートされた「知らんけど」。流行り言葉かと思いきや、関西では昔から普通に使われてきたという。NHKのWEBサイトで、関西出身の記者と関東出身のディレクターがこんなやりとりをしている。

ディレクター「関西人、この言葉めちゃくちゃ使いますよね。なんで使うんですか?」
記者「そうやなあ。みんな物心ついたときに使えるようになってると思うで、知らんけど」

◆関西弁に詳しい放送大学大阪学習センターの金水敏所長はこう語る。「ふだんの会話でいろんな話題が出て、盛り上がったときに『自分はこういうことをしゃべりたい』と思っていても、それほどよく知らなかったり、当事者じゃないときってありますよね。でもしゃべりたいとき、何か言っちゃうというときに『知らないんだけど』っていうことを付け足しの意味で話すというのが関西の使い方です。関西人は会話の中でさほど知らなくても情報を出したいと考える人が多いですからね」

◆大阪は商人の都市として発展してきた。商売だから、とにかく情報をたくさん与えて相手からもたくさん情報をもらって、いくぶん不確かなこともとにかく情報をやり取りする。「知らんけど」がここまで定着した背景には、そうした歴史的な土壌があると金水所長は指摘する。

◆しかし、この言葉に馴染んでいない人には、無責任のように聞こえることもあるだろう。最新版の「現代用語の基礎知識」(自由国民社)によれば、「知らんけど」は「文末に付けて、断定を避け、責任も回避する言い方」とある。NHKの取材に、最近大阪に引っ越してきた横浜出身の大学院生は、「確証がないなら無理してしゃべらなくてもいいと思うんですけど…」と答えている。

◆不確かでも、とにかく情報を出すべきか、あるいは確証がないなら無理に伝えない方がよいか。ストラテジストの情報発信のあり方という点でも考えさせられる問題だ。例えば、僕がテレビ番組で、「日経平均は3万円になるらしいで。知らんけど」と話せば、批判が殺到するだろう。当たり前のことだが、要はTPO次第である。それは何も、「知らんけど」に限ったことではない。「ハンコを押すだけの地味な仕事」も同じである。言葉とはすべからくTPOをよく考えて使うべきだということに尽きるのである。