人は経済合理性でのみでは行動しない・・・
「損」か「得」か、人はどちらと感じて選択するのかという点に注目し、現在ではすでに周知なのが「行動経済学」です。人の行動は先々への思惑や環境の変化によっても異なり、それは机上での合理性とは大きくかい離することもあります。
損得を考えるとき、人が回避したいのはマイナスにぶれる「リスク」とされますが、損失に対するリスクではなく「不安」が行動を決めることもあります。
突然ですが、平均寿命は男性より女性の方が長いことはご存知ですよね。WHO世界保健統計2014年版によると、日本の男性は80歳(世界第5位)、女性は87歳(同1位)なので、単純に見れば女性の方が7歳長生きです。
ご夫婦の場合、女性の方が年上のケース以外は、老後女性は一人になることが多いのが現実です。皆さんの周囲でも高齢女性の独り暮らしはよく見かけませんか?
高齢になってから破綻する「老後破産」については以前取り上げ、現役時代からの心がけについて触れました。
実は、もう一つ落とし穴があります。
長く専業主婦である方は、日々の家計管理は行っていても、大きなお金を動かす決断はご主人任せでということも多いようです。また社会保険や税金等についてはほとんどかかわったことがない方もいらっしゃるでしょう。一人暮らしの経験はなく、自身で生活の全てをやりくりしたことがない方も。
そんな方が、初めての独り暮らしを始めると、まずは不安を感じられるのですが、同時に一人でいることの寂しさと開放感(?)から交際費等余計にお金を費やしてしまうこともあるようです。
二人暮らしから一人暮らしになると、生活費はこれまでの半分かといえば、そうはなりません。上記のような出費や身近に頼れる人がいなければ業者等に依頼することも増えるからです。
一人暮らしを始めた時は、遺産等が十分にあるにもかかわらず、それまで以上の出費を続けることでそのまま老後破産へ転がり落ちてしまうケースもあるのです。
逆に今後の生活への不安が募るあまり、現金を抱え込んでしまうケースもあります。平均余命から考えても使いきれない、十二分な財産があってすら、通帳の残高が減るのは怖いという方もいらっしゃいます。破綻するよりはずっと良いと思えますか?
今年から相続税、贈与税の税制改正が施行され、相続時には税金のかかる人がぐっと増えることになり、経済合理性から見れば贈与等を上手に活用して、相続時に評価額が高くなる現金は減らしておく方が節税効果は高いのです。
ですが感情的にはそうした現実を受け入れられない方も多いようで、余計に税金をとられることで相続を受ける子や孫の負担は増えることになってしまいます。
心理的な部分が大きく占めるこうした問題は、なかなか合理的には行えないのが本当のところです。
廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員