7月の物価上昇率は市場予想を超える鈍化

8月10日に米国の7月の消費者物価指数(CPI)が発表され、前年同月比+8.5%と、市場予想(+8.7%)を下回った。予想との差はわずかにも見えるが、0.2ポイント高めに外すことは過去もあまりなく、市場にとってはサプライズとなった。翌11日に発表された生産者物価指数(PPI)も前年同月比で+9.8%と、市場予想(10.4%)を大きく超える鈍化となった。

米国では、足元で消費者物価と米ドル指数の相関が高まっていた(図表1)。インフレ率が利上げ予想を押し上げてきたためだ。今週の物価関連指標の発表で、行き過ぎた利上げが避けられそうだとの安心感で株価が好感する一方、ドル円は一時132円台まで下落した。

それでも高インフレ完全制圧には時間がかかる点は注意

但し、依然価格の上昇が止まったわけではない。前月から上昇率が下がったのは、エネルギー価格やこれに関連する輸送品目や一部のIT商品などごく狭い分野に限られた。一方、日々の生活を支える食品等は上昇が続いている。前年同月比の上昇幅が7月に拡大した品目としては、38%上昇の卵を筆頭に、小麦粉、コーヒー、リビング等の家具、健康保険などがある(図表2)。これらは、いずれも生活に密接にかかわるものであり、富裕層よりは、エンゲル係数が高い低所得者層の生活をより圧迫する。

その上、価格が一旦上がると下がりにくい、“粘着度”が高い品目の値上がりも気になるところだ。これまでの価格上昇は価格の上限がフレキシブルな品目が牽引していたが、このところ、賃料、教育、医療といった価格の粘着性が高い品目の上昇が目立つ(図表3)。価格が下がりにくい品目の値上がりで、8%台という猛烈なインフレは沈静化しても、FRBの目標の2%に下がるには相当時間がかかりそうだ。

今後の見通し:大幅利上げは当面続く

インフレ加速の終わりが見えないという懸念は、一定程度緩和されたと考えていいだろう。しかし、インフレ沈静化の足取りは鈍く、利上げを相当急がないと、過去最大となっているインフレ率と政策金利のギャップは平年並みには戻らないだろう(図表4)。市場が先走って利上げ幅縮小を期待しすぎると裏切られるかもしれない。まずは今月25-27日(現地時間)に開かれるジャクソンホール会議で触れられるであろうインフレ見通しや、政策対応の考え方のニュアンスに注目したい。