みなさん、こんにちは。日経平均は引き続き、ボラティリティの高い不安定な相場となっています。

コロナ禍で痛手を受けた人流も回復し始め、前回のコラムで触れた「骨太の方針2022」なども好材料として期待したいところではありますが、世界経済はそれ以上のペースで変化し始めており、なかなか日本は先んじて有効な対策を打てていないのも、また実感されるところです。

しかし、当面は参院選もあり、政治的には大きな動きが止まる可能性は否めません。このような空白期間には大きな変化が起きやすいということをしっかりと認識しておくべきでしょう。市場は底を打ったようだとの認識からそう時間も経ってはいませんが、早くも不安定な状況に回帰してしまうリスクは高まってきていると考えています。

物価上昇と経済活動の停滞、現実味を帯びてきたスタグフレーション

さて、今回は「スタグフレーション」を採り上げてみましょう。昨今では様々な場面で物価上昇を痛感することが増えてきました。食品などはその際たる例で、ここにきて値上げピッチも急加速している印象が否めません。食品は値段が上がったので買わないという訳にもいかず、一般消費者は値上げを粛々と受け入れる他ない、という状況になっています。

ガソリン価格の上昇も同様です。着実に家計は圧迫されつつあると言えるでしょう。もちろん、それ以上に賃金上昇があれば実質購買力は引上げられることになり、むしろ消費拡大に繋がると言えるのですが、現在のところはかなり微妙な状況です。

日本経済団体連合会の調査によると、大手企業の夏のボーナスは平均14%増といった一時集計もありますが、それでもコロナ前の水準と比較するとまだ3%程度低い水準にあります。概して賃上げピッチは鈍く、物価上昇に購買力が追いついていない構造にあるようです。

購買力の相対的な低下は結果として総需要の後退リスクを惹起しかねず、それは需要の拡大が物価上昇を牽引するようなパターンのインフレーションとは異なり、需要後退下でモノの値段が上がるというスタグフレーションを想起させるものとなリます。

私は約1年前のコラムでインフレをテーマに採り上げ、半年前には2022年注目すべきテーマとして「考えたくもないが」との前提付きでスタグフレーションの可能性を解説しました。今では残念ながら、事態はこのリスクシナリオが現実味を帯びてきたのでは、と受け止めています。

過去事例から考察する今後の相場展開

過去にスタグフレーションが起こったのは、1970年代のオイルショック時でした。需要とは関係なく、いきなり原油価格が急騰したことでそれに波及して物価が上昇し、それらが総需要を後退させたのです。オイルショックを克服するまでには数年を費やし、株式市場も概して大きな調整を強いられました。

状況として、今回はこの時と酷似しているのかもしれません。私はほんの数週間前まで「株式市場はかなりの悪材料を織り込み、ほぼ底を打ってきたのでは」と感じていました。

しかし、世界的な金利上昇ピッチは非常に急で、インフレ、あるいはスタグフレーションへの警戒感は予想以上に高まっているのではと懸念しています。経験則で見れば、株式市場はより調整色の強い相場展開となる可能性が増してきていると考えています。

スタグフレーションを見据えた投資戦略とは

では、そういったスタグフレーションが現実味を増し始める中、どのような投資戦略を採るべきでしょうか。

私は輸出産業に注目しています。スタグフレーションリスクが世界規模で広がりつつあるとすれば、金利はまだ上昇圧力が燻るものと予想できるでしょう。日本で金融政策が変更されない限り、それは円安水準がしばらく継続するシナリオを想起させることになります。

とすれば、世界的な総需要の伸び悩みがあったとしても、輸出産業は円安を追い風に競争力を確保できるために相対的に有利なのではないか、という見立てです。

実際、コロナ禍からの回復ラッシュとなった2021年業績に続き、2022年度は24年ぶりの円安水準を背景に、輸出企業を中心に業績動向は順調な見通しが広がっています。もちろん、今後の経済動向によってこの見通しにも随時変更が加えられることになるのでしょうが、円安が相対競争力を改善させる輸出産業に注目する意味は大きいと考えています。

先行き不透明な状況であるからこそ、「よりダメージの小さい」「比較優位を実現できる」業界への選好傾向は増すと予想します。

ただし、これは円安水準の継続が前提条件です。今後、日本の金融政策に変更があり(例えばイールドカーブコントロールの緩和など)、それをきっかけに円高方向に変化することがあれば、当然シナリオは変わってきます。

先行きの見え難い状況となっている以上、幾つものシナリオを常に用意し、準備しておくことを肝に銘じておきたいところです。