みなさん、こんにちは。日経平均は久々に28,000円を越えるなど前回のコラムで予想した通りの堅調な流れになってきたと感じた矢先、世界的な金利上昇懸念の再台頭で再びボラティリティが急上昇してきました。

金利上昇という悪材料を世界的に再度織り込むフェーズに入ったと言えるのかもしれません。ただ、日本株に関しては円安メリット企業への期待増大やインバウンド解禁を含めたコロナリベンジ消費期待などに加え、直近では6月7日に閣議決定された「骨太方針2022(経済財政運営と改革の基本方針2022)」などから、(諸外国と比較して)相対的な魅力度は少なからずあるように私は感じています。

これまで岸田内閣の経済施策に対する資本市場の評価は決して芳しいものではありませんでしたが、この骨太方針で見られた変化は資本市場をより意識したものとなっていました。まだまだ懸念材料が残ってはいますが、国内要因に限って言えば参議院選挙までは悪材料の出難い展開になるのではないか、と予想しています。

骨太方針、直近気になる3つの変化

さて、今回はその「骨太方針2022」を採り上げてみましょう。骨太方針とは「経済財政運営と改革の基本方針2022」の通称であり、今回は岸田内閣が取り組むとする具体的な経済財政政策という位置付けになります。

「骨太方針2022」の主たる骨子は、「新しい資本主義」の考え方、それを実現するための人材やデジタル、グリーンなどへの投資、安全保障、財政政策などとなっています。内容的には岸田内閣発足時から提示されていたものが多く、特に目新しいものはありませんでしたが、幾つか注目すべき変化もまた散見されました。

中でも私が注目したのは次の3点です。まず、安全保障に積極的な姿勢を明確にしたこと、そして、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化推進に向けてのトーンを後退させたこと、最後に、新しい資本主義実現に向けての主要施策となる具体的な補正予算に関しては参院選後に先送りとなったこと、の3点となります。

前述の通り、やや資本市場では不人気だった岸田内閣の経済施策ですが、市場はこの変化を概して好意的に受け止めたように感じています。

安全保障に強い防衛関連産業やIT分野の需要底上げに期待

安全保障への積極的な姿勢は、当然ながら、生命と財産が脅かされるリスクの軽減に直結するうえ、防衛関連産業にとっては需要拡大の追い風となります。

特に、サイバーセキュリティや宇宙といった領域はより積極的な予算が設定される可能性は高く、この分野で高度な技術を有する企業群は株式市場からの注目も集まるのではないでしょうか。安全保障関連となると、どうしても物理的な正面装備などを想定してしまいがちですが、こういったIT分野の需要底上げ効果もまた大きいと想像しています。

財政健全化は方向転換か。円安もしばらく続く見込み

そしてなんといっても、財政健全化に対する表現の後退は株式市場に大きなインパクトを与えました。財政健全化に向けて「成長から分配」「金融所得課税強化」といった、どちらかと言えば市場に不人気な政策を唱えてきた岸田総理でしたが、これらをある意味封印したことで政策の方向転換と受け止められたのかもしれません。

実際のところ、現状の消費動向を見る限り、財政引き締めに転じるタイミングはまだ見え難い状況にあると言わざるを得ません。財政健全化はもちろん望ましい方向ではあるものの、現状では角を矯めて牛を殺す「オーバーキル」になるのではないかとの懸念が燻っていたのです。この骨太の方針により、まずはその懸念は大きく後退したのではないかと位置付けます。

ただし、これはすなわち、日本円と他の通貨との金利格差が一層拡大するという予測を喚起することにもなります。先週に円安が一気に進展し、米ドル/円レートが20年ぶりの水準となったのは記憶に新しいところです。為替の予測は難しいものがありますが、金利動向を見る限り、しばらくは円安水準が継続する公算が大きいのかもしれません。

未だ不透明な「新しい資本主義」実現に向けた動き

対照的に、「新しい資本主義」実現に向けての具体策が先送りとなったことは残念でした。岸田内閣の提唱する「新しい資本主義」に関しては、内閣が発足して半年以上が経過しているにもかかわらず、スローガン先行でその具体的内容が不明であるとの指摘が長く資本市場でなされてきました。

実際、私もこの「新しい資本主義」という概念がどういうものなのか、未だに見当もつかないというのが実感です。そのため、財政引き締め観測の後退は一義的には株式市場が好感する材料ではあるものの、政権の軸の一時的なブレかもしれないという懸念は燻ることになるでしょう。

ブレであるとすると、「新しい資本主義」に向けての具体策を詰めていくにしたがい、再び以前の引き締めスタンスに戻るというシナリオも考える必要が出てきます。「新しい資本主義」の概念が確定していないが故に、こういった観測や思惑、懸念が発生する余地は大きいとも言えるのです。

骨太方針は固まりましたが、やはり具体的な対策が出てくるまでは、どこまでこの方針を株価に織り込んで良いか、まだまだ手探りの状況が続くものと私は考えています。