みなさん、こんにちは。日経平均は6月に入って横ばいでの推移となっています。5月はセルインメイ(Sell in May、株は5月に売れという格言)さながらに弱含みの展開にありましたが、ここにきて持ち直してきているというところでしょう。
対応の遅れや段取りの悪さが懸念されたワクチン接種も、直近は急ピッチで体制が整って来ており、数ヶ月後には多くの国民がワクチン接種済となる計算ができるようになってきました。ワクチンの効果も英米では実証済であることを考えれば、自粛疲れから解放される効果はかなりのものが期待できるのではないでしょうか。
リモートワークやQOLといった社会行動様式もワクチンによってコロナ前に戻るのではなく、むしろより(メリハリをつける形で)加速するようにも思われます。今後1-2ヶ月間は、(後から振り返ると)このコロナ禍における大きな転換点になるのではと私は考えています。
インフレと金利の関係
さて、今回は懸念が高まってきたように思われる「インフレ」をテーマに採り上げてみましょう。5月、米国では4月の消費者物価指数、卸売物価指数が予想以上に上昇したことを受けて金利が上昇し、これに伴って米国株価には大きな調整が入りました。
ただし、混同してはいけないのですが、インフレそのものは株価にとって決してマイナスではありません。そもそもインフレとは物価が継続的に上昇する状態を指します。貨幣価値が継続的に低下する状況とも言い換えることができますが、こういった状況では物価上昇で企業は儲かり、従業員の給料も増えるものです。消費者の購買姿勢も物価上昇を前にして積極的になるため、更に経済は活性化します。好景気局面というのは、まさに緩やかにインフレが進行している状況なのです。
ではなぜ、インフレ懸念が高まると株価に調整が入るのでしょうか。これは金利が上昇してしまうためです。物価の上昇ペースが加速すると、消費者の給与上昇がそれに追いつかず、結果として人々の暮らしはむしろ悪化してしまうリスクが高まります。そのため、この調整機能として金利が上昇するのです。
金利が上昇すれば、市中に出回るお金の量が抑制されるため、貨幣価値の低下(=物価上昇)に歯止めがかかり、景気の拡大ピッチを巡航速度まで冷やすことになります。それが株価の調整要因となるわけです(教科書的には、金利上昇により様々な資産の現在価値が低下するという流れになります)。インフレではなく金利が原因であることをご理解ください。
コロナ後、インフレ下で注目する資産やセクターとは
そこで、現在の状況を俯瞰してみましょう。2020年から現在に至るまで、世界各国はコロナ禍で経済を回すために大量のお金を市中に供給しました。これは、つまり貨幣価値の低下を促しています。そこにワクチン接種の浸透などを契機として、コロナ禍の克服が視野に入ってきたのです。
実需が本格的に戻ってくれば、当然物価は上がる方向に動き出します。大量供給されたお金はそのまま市中に残っていますので、インフレが急速に進行する条件は揃っています。そして、その調整機能として長期金利もまた上昇に向かい始めます。5月に米国金利の上昇が加速したのはそういった背景があったためです。しかし、この時に米連邦準備制度理事会(FRB)は当面の景気回復を優先し、低金利状態を継続させるという方針を明らかにしています。これを受けて、株価も落ち着きを取り戻したという構図であるとご理解ください。
しかし、需要回復、流動性(お金)の大量供給というインフレが進行しやすい構造に変化はありません。これは長くデフレに悩まされてきた日本でも同じです。今後は金利動向へ注視しつつ、株式投資においても大きくは対インフレ型の投資戦略を考えていく必要があると私は考えます。
インフレ下でまず注目されるのは、コモディティや不動産といったいわゆる「現物資産」関連セクターでしょう。これらは長期の保有ないしは保存が可能である以上、お金の価値低下(=インフレ)はストレートに資産価値の上昇に繋がると考えられるためです。換金性が高く、流動性もある絵画などの高額商品も同様です。春先のコラムで「ポストコロナ消費」をテーマに取り上げた際にも、こういった商品群を要注目と私は位置付けていました。
次に考えるのは、インフレにより期間業績を伸ばす企業群です。物価が上がるわけですから、多くの企業が売上増という形でそのメリットを受けることでしょう。しかし、インフレ下では原材料や人件費といったコストも同様に上昇します。
インフレ下で利益を急拡大できる企業というのは、そういったコストのあまり多くない付加価値型の企業群ということになるでしょう。具体的には、耐久消費財などがその好例に挙げられます。
対象的に、直近で一世を風靡しているIT系サービスなどは(もちろん、DX化という追い風による成長は当然としても)インフレメリット銘柄群としては位置付け難いと言えるでしょう。長期的に見れば、相場の主役は今後、ITなどのデジタル分野からややオールドファッションな分野へと拡散していくのではないかと私は考えます。