エヌビディア決算、データセンターとゲーム分野で過去最高の収益
米半導体大手のエヌビディア(NVDA)が5月25日、2022年2-4月期(第1四半期)決算を発表した。売上高は前年同期比46%増の82億9000万ドルと、市場予想(81億2000万ドル)を上回った。これは前四半期(4Q FY2022)に比べても8%増収となる。
一方、アーム社買収の終了に伴う費用13.5億ドルが発生したため、GAAPベースでの純利益は15%減の16億1800万ドルと2桁の減益。ただし、データセンターとゲーム分野においては過去最高の収益を記録しており、非GAAPベースで見ると前年同期比49%増と大幅増益での着地となった。
クラウド事業者や大企業によるデータセンター向けの投資は引き続き堅調だ。データセンター部門の売上高は83%増の37億5000万ドルと、主力のゲーム部門の売上高(31%増の36億2000万ドル)を上回る水準となった。一方で、暗号資産の相場下落に伴い、マイニング用の半導体を中心とする「その他」の売上高は52%の大幅減少となった。
決算の発表後、株価は大幅下落となった。市場が懸念したのは先行きだ。会社側が同時に発表した第2四半期(5-7月期)の見通しは、売上高が79億3800万~82億6200万ドルと、市場予想を約4%下回るものだった。
背景にあるのは、ロシアへの直接出荷を停止したこと、さらには中国のロックダウン(都市封鎖)によって需要と供給の両面で減速感が強まるとのこと。これに伴い、売上高ベースで5億ドルのマイナス影響を考慮したとしている。
2022年5月27日付のウォール・ストリート・ジャーナル記事「ゲーム減速のエヌビディア、少し調子悪いだけ?」は次のように指摘している。
ファクトセットによると、エヌビディアは過去9四半期に市場予想をいずれも平均10%上回る見通しを示しており、今回の下振れは異変とも言えそうだ。(中略)こうした悲観的な見方は、破竹の勢いだったエヌビディアのビデオゲーム事業がいよいよ減速しつつあるとの大方の懸念を確認することにもなった。ゲーム事業はエヌビディア全体の半分近くを占め、過去8四半期は前年比で平均54%の伸びをたたき出してきた。
確かに中国市場はエヌビディアのゲーム向け半導体事業にとって特に重要な市場であり、ジェンスン・ファンCEOはインタビューで「複数の大都市で封鎖措置が敷かれると、誰も当社の製品を購入できない」とコメントした。
しかし、ゲーム向けの隙間を埋めるどころか、埋めてお釣りがくるほどにデータセンター向けの需要が伸びている。クラウドコンピューティングに対する旺盛な需要が続くことに加え、フェイスブックを傘下に持つメタ・プラットフォームズ(FB)等、メタバース構築への取り組みが追い風となり、データセンター向けの好調は続くと考える。
グローバルに広がる半導体のサプライチェーン
世界的な半導体不足が続いている。パンデミックをきっかけになぜここまで半導体のサプライチェーンが大きなダメージを受けたのかを改めておさらいしておきたい。
巨額の設備投資が必要とされる半導体業界においては、2000年代からグローバルに水平分業が拡大してきた。エヌビディアやクアルコム(QCOM)等、工場を持たないファブレスの半導体メーカーは設計開発に注力し、製造は受託会社であるファウンドリーに委託するという流れだ。
水平分業は技術開発や原料調達、組立工程等に関して、異なる企業がそれぞれの得意分野を生かして役割分担するビジネスモデルのことで、1つの企業が開発から生産のすべてを受け持つ垂直統合に比べて設備投資の負担や事業リスクを軽減できる。
その半導体のサプライチェーンについて、IEEE(アメリカ電気電子学会)が発刊する雑誌IEEEスペクトラムの記事「These 5 Charts Help Demystify the Global Chip Shortage - IEEE Spectrum(世界的なチップ不足を説明する5つのチャート – IEEEスペクトラム)」は、半導体部品は、最終顧客に届くまでに5万km以上もの距離を移動し、70以上の国境を越えることがあると記している。
半導体企業で組織されたグローバルセミコンダクターアライアンスの2020年版レポートによると、米国で生産されたシリコン原料や薬品が1万2000キロ移動して台湾に運び込まれて加工される。その後、マレーシア(3,200km)、ドイツ(9,700km)を経て中国(7,700km)へ持ち込まれ、完成品の半導体として米国に納入されるまでに5万5,400kmの距離を移動するというのだ。地球1周は約4万km、まさに半導体は地球規模で製造されている。
前述の記事によると、ニューヨークにあるスティーブンス工科大学ハンロン金融システムセンター所長のジョージ・カルフーン氏は、「半導体業界にはサプライチェーンという言い方は当てはまらない。これは非常に複雑なグローバルエコシステムであり、そのグリッド(送電網)の中には極めて重要なポイントもある」と指摘している。
例えば、オランダのASMLホールディング(ASML)は世界で唯一のEUV(極紫外線)露光装置を製造している企業である。最先端の半導体(5ナノメートル、7ナノメートル)の9割以上が台湾で製造されているといった点は半導体サプライチェーンの脆弱性でもある。
しかし、SIA(半導体産業協会)の2021年の報告書によると、グローバル化は業界にとって決して悪いことではないという。もし、自給自足のローカル半導体サプライチェーンに移行した場合、米国において半導体を製造するのに半導体価格が最大65%上昇すると試算している。
半導体工場は一般的に80%の稼働率を維持しつつメンテナンスや機器のアップグレード、スタッフのシフト等に対応している。しかし、IoT機器や自動運転車の普及等を含む半導体需要の急増を受けて2019年夏頃から世界の半導体工場の稼働率が90%を上回ることが常態化していた。つまりパンデミックの前から火種はくすぶっていた。
そして、半導体の需要が供給を上回り始めた矢先にパンデミックが発生し、原材料の調達から、部品の移動、完成したチップを顧客に届けるためのグローバルな物流に至るまで、供給におけるエコシステムのあらゆる部分が打撃を受けたのである。
加速するデータセンターへの投資はエヌビディアの業績の追い風となるか
パンデミックを経て、企業は新しいビジネスや社会の動きに対応することを迫られている。その中で、デジタル化の推進に大きく寄与する社会の重要インフラとなっているのがパブリッククラウドである。パブリッククラウド事業は今やハイテク大手にとって他事業の成長を大きく上回る重点事業となっている。
調査会社のガートナーによると、アプリケーションソフトウェア、インフラソフトウェア、ビジネスプロセスサービス、システムインフラ市場のうち、クラウドに移行可能なカテゴリを対象とした調査で、2025年には、パブリッククラウドへの企業IT投資が、従来のITへの支出を追い越すとしている。
クラウド事業を手がける企業の市場シェアではAWS(アマゾンウェブサービス)が圧倒的で、次にマイクロソフト、グーグルと続いており、この大手3社で全体の約6割を占めている。
英国ロンドンに本社をおく調査会社のテクナビオによると、世界のデータセンター市場の年平均成長率は21%を超え、2025年には市場規模が5000億ドルを超えるとしている。大きな市場であると同時に成長率も著しい。
データセンター市場が大きく伸びている背景にあるのはデータ量の爆発的な増加だ。ZDNet Japanの記事「2025年には世界で生成されるデータの約30%がリアルタイムデータに―IDC」によると、世界のデータ量は、2017年の23ゼタバイトから2025年には175ゼタバイトへと増加する見通しだ。1ゼタバイトは1兆ギガバイトに相当する。
また、データを生成する消費者の数も増えている。現在、50億人を超える消費者が毎日データをやり取りしているが、その数は2025年までに60億人に増え、世界人口の75%に相当すると言われている。
日本マイクロソフトがビジネスで使える IT ネタを発信する「ネタバース」という動画がYouTubeで公開されている。動画によると、マイクソフトは40を超える国々、地域で、160を超えるデータセンターを展開しており、引き続きデータセンター投資を積極化するとしており、年間140億ドル超のハードウェアへの投資を行い、毎週3万4000台のサーバーを展開しているそうだ。換算すると1時間に200台ずつサーバーが増えている計算だという。
年初からの株価下落に伴い、エヌビディアのPERは直近で50倍台に低下している。年初来、ナスダック指数とほぼ連動して推移していたエヌビディアの株価は4月を境に、ナスダック総合指数にアンダーパフォームする展開となっている。このギャップが埋まるだけでも1割程度のアップサイドが期待できる。半導体市場の需給逼迫、さらにはクラウド市場の成長を考慮すると筆者はそれが難しいことではないと考える。