イーライリリー・アンド・カンパニー[LLY]、糖尿病・肥満症治療薬で躍進
医薬品のイーライリリー・アンド・カンパニー[LLY]は、米国株の時価総額で上位に入る銘柄です。持続的な株価上昇で存在感を高め、自社より上位に位置するのはマグニフィセント・セブンと数社だけで、2024年にはベストテンに入る期間もありました。
株価上昇の原動力になったのは、糖尿病治療薬「マンジャロ」と肥満症治療薬「ゼップバウンド」の好調な販売です。「マンジャロ」は2024年7-9月期の売上高が前年同期の2.2倍に当たる31億1300万ドルに達し、「ゼップバウンド」は12億5800万ドル(前年同期は未発売のためゼロ)でした。イーライリリーの製品別売上高で1位と3位にランクされ、両製品の売上高は全体の38.2%を占めます。両製品のヒットで心血管・代謝疾患の治療薬の売上高は56.9%増の74億700万ドルに急成長しています。
「マンジャロ」と「ゼップバウンド」は実は同じ成分の医薬品です。満腹中枢に働き掛けて過剰な食欲を抑制するホルモン「GLP-1」の働きを利用します。まず「マンジャロ」という商品名で糖尿病治療薬として発売されると、世界的な大ヒットとなり、品切れで入荷待ちという状態が続きました。そして肥満症治療の薬効も認められると、「ゼップバウンド」という商品名で発売され、2023年10-12月期から売上高が計上されています。
心血管・代謝疾患の治療薬以外では、がん治療薬の売上高が27.7%増の22億3200万ドルに達しました。免疫疾患の治療薬は20.1%増の11億8600万ドルと堅調で、乾癬治療薬の「トルツ」が18.2%増の8億8000万ドル、関節リウマチ治療薬の「オルミエント」が8.4%増の2億5100万ドルと着実に伸びています。
アッヴィ[ABBV]、M&Aの成果で美容医療にも業容拡大
アッヴィ[ABBV]は研究開発型のバイオ医薬品会社です。リウマチ系疾患、皮膚疾患、消化器系疾患、眼科系疾患、がん、精神・神経疾患、ウイルス感染症などの領域で治療薬を開発しています。また、美容医療の分野にも強みを持ちます。
2024年7-9月期の売上高は前年同期比3.8%増の144億6000万ドル、純利益は12.2%減の15億6100万ドルでした。乾癬治療薬「スキリージ」の売上高が50.8%増の32億500万ドルに達し、製品別では最大です。
このほかの主力製品には関節リウマチの治療薬「ヒュミラ」、アトピー性皮膚炎の治療薬「リンヴォック」、慢性リンパ性白血病の治療薬「イムブルビカ」、急性骨髄性白血病の治療薬「ベネクレクスタ」などがあります。
一方、神経疾患治療薬の「ボトックス・セラピューティック」と美容医療の「ボトックス・コスメティック」はそれぞれ年間の売上高が30億ドル前後に達する主力商品です。ともに2020年にアイルランドのアラガンを買収して組み込みました。
2024年2月には抗体薬物複合体(ADC)の開発を手掛けるイミュノジェンの全株式を101億ドルで買収。8月には精神・神経疾患の治療薬を開発するセレベル・セラピューティクスの買収(87億ドル)を完了させています。買収を通じ、それぞれの事業領域の強化を図る方針です。
ファイザー[PFE]、コロナ禍で激しいアップダウンを経験
ファイザー[PFE]は1942年に設立され、80年を超える歴史を持ちます。医薬品の製造と販売で売上高の大半を稼ぎ出しており、特定のバイオ医薬品会社に向けて研究開発サービスも提供しています。
新型コロナウイルスが世界的に流行するまでは、乳がん治療薬の「イブランス」や関節リウマチ治療薬の「エンブレル」、静脈血栓塞栓症治療薬の「エリキュース」、関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療薬「ゼルヤンツ」などが主力製品で、年間の売上高がそれぞれ10億ドルを超えていました。
こうした製品はいまでも主力ですが、世界的なパンデミックを受け、一時的に主役が交代しました。ドイツのビオンテックと共同でいち早く新型コロナウイルスのワクチンの開発に乗り出し、世界中から注目を集めたのは記憶に新しいところです。それがmRNA技術を利用したワクチン「コミナティ」です。
業績への好影響は2021年12月期に明確に表れ、売上高が前年比95.2%増の812億8800万ドルとほぼ倍増し、純利益は2.4倍の219億8000万ドルに急増しました。「コミナティ」の売上高が367億8100万ドルに達し、収益を押し上げています。2022年12月期は「コミナティ」の売上高が378億600万ドル、新型コロナ治療薬の「パキロビッドパック」が189億3300万ドルとなり、全体の売上高が1000億ドルの大台に乗っています。
ただ、新型コロナへの警戒感が薄れたあおりで、2023年12月期は売上高が前年比41.7%減の584億9600万ドル、純利益が93.2%減の21億1900万ドルに落ち込みました。「コミナティ」の売上高が70.3%減、「パキロビッドパック」が93.2%減と急減しています。
パンデミックを受けたアップダウンは一巡し、2024年7-9月期決算では売上高が前年同期比31.2%増の177億200万ドル、純利益が44億6500万ドル(前年同期は23億8200万ドルの純損失)となりました。
ファイザーはコロナ感染の収束後を見据え、がん治療薬の開発を手掛ける米シージェンを2023年12月に買収しました。総額で434億ドルと決して安い買い物ではありませんが、抗体薬物複合体(ADC)の開発で知られるシージェンの買収を通じ、次世代のがん治療薬として期待される分野を強化する方針です。
ブリストル・マイヤーズ[BMY]、小野薬品工業(4528)と提携
ブリストル・マイヤーズ[BMY]は、1887年にニューヨークで創業した企業を源流とする医薬品メーカーです。がんや血液疾患、免疫疾患、心血管疾患、精神・神経疾患などの治療薬を開発し、販売しています。
ブリストル・マイヤーズは、同業他社との提携に積極的です。2023年12月期の製品別売上高で年間の売上高が10億ドルを超える製品は10種類に上りますが、上位には共同開発の医薬品が目立ちます。
静脈血栓塞栓症治療薬「エリキュース」(年間売上高が122億600万ドルで最大)はファイザーと共同開発した製品です。もちろんファイザーにとっても主力製品の一角に位置づけられています。
がん治療薬「オプジーボ」(90億900万ドル)と関節リウマチ治療薬「オレンシア」(36億100万ドル)、がん治療薬「ヤーボイ」(22億3800万ドル)は小野薬品工業(4528)と共同で開発した製品です。
一方、M&Aにも力を入れており、2024年1月にはがん標的治療薬を開発するミラティ・セラピューティクスの全株式を48億ドルで買収しました。また、2024年3月には精神・神経疾患の治療薬を開発するカルナ・セラピューティクスの全株式を140億ドルで買収しています。ミラティとカルナはともにナスダックへの上場を廃止しています。
ゾエティス[ZTS]、家畜やペットの治療薬に強み
ゾエティス[ZTS]は家畜やペットの治療薬、ワクチン、試薬などの開発や製造を手掛けています。もともとはファイザーの一部門でしたが、2012年に分離しました。ファイザー時代を含めると、アニマルヘルスの分野で70年を超える実績があり、特に動物の病気の予測、予防、検出、治療に重点を置いています。
治療薬やワクチンの主要対象となる動物は、犬、猫、馬のペットに牛、鶏、豚、魚、羊などの家畜を加えた8種類です。2023年12月期決算の売上高は犬・猫部門が前年比7.1%増の52億9100万ドルで、売上高全体に占める割合は61.9%に達しています。
この割合は2019年12月期に47.1%にすぎませんでしたが、2020年に51.5%、2021年に56.9%、2022年に61.1%と年を追うごとに上昇し、2024年7-9月期には64.9%に達しています。世界的にペットの家族化が進んでおり、飼い主による手厚いケアがペット部門の増収に結びついているようです。
製品の分野別では寄生虫の駆除剤、ワクチン、皮膚薬、抗感染症薬、その他医薬品(鎮痛剤、鎮静剤、制吐薬、繁殖用薬、腫瘍治療薬)が主力で、年間売上高が10億ドルを超えています。このほか動物用の健康診断薬や薬剤添加飼料も販売しています。