1月27日に発表された2021年10〜12月期決算で、Visaの営業収益は70.6億ドル(前年比24%増)、営業利益は47.8億ドルだった。営業利益率は67.7%と、依然として呆れるほどの高収益を保っている。

出所:strainer

一方でVisaやMasterCardといったクレジットカードブランドは、キャッシュレスの重要性が叫ばれる中で微妙な立ち位置にいる。決済手段が多様化し、「クレジット」だけに頼る必然性が減っているのだ。

米国の若手層では、すでにクレジットよりもデビットを使う方が一般的だという。BNPL(Buy Now, Pay Later)など新たな金融サービスの潮流もある。新しい決済方法が普及する中で、既存のクレジットカードブランドの優位性は揺るがないのだろうか。

VisaやMasterCardの経営陣は、言うまでもなく上記のような潮流を意識している。今回は、クレジットカードブランドとして世界最大手「Visa」の今後の戦略について、改めて整理したい。

決済領域を取り巻く「5つのトレンド」

2022年1月現在、Visaで会長CEOを務めるのはアルフレッド・ケリー(Alfred F. Kelly, Jr.)という人物。2014年にボードメンバーに加わり、2016年からCEOに就任した。

ケリーCEOはかつてアメリカン・エクスプレスで社長職(President)を務めたこともある。LinkedInページによると、アメックス社に務めたのは1987年から2010年までの23年。出身校であるアイオナ大学ではコンピュータ科学を学んだほか、MBAも取得している。

決済領域には大きく5つのトレンドがあるとケリーCEOは言う。A2A(Account to Account)、RTP(Realtime Payment)、BNPL、暗号資産、そして(電子)ウォレットだ。

これらの潮流はペイメント全体に大きな変化をもたらすが、むしろVisaにとっては「機会」にほかならないというのがケリー氏の主張だ。新たな決済手段を取り込む上でも、Visaのポジショニングにはユニークな強みがあるという。

キャッシュレス化に長期の伸び代をみる

決済という領域全体をみたとき、Visaが成長の源泉とみるのは他ならぬ「現金」それ自体だ。2020年に行われたインベスターデイでは、現金と小切手(cash and check)には18兆ドルもの代替機会があると述べた。そして、その金額は膨らみ続けている。

「キャッシュレス化」こそ、Visaの成長につながるというわけだ。NetflixがDisney+やAmazon Prime Videoとの競争ではなく、リニア型ネットワーク(既存のTV局やCATV)からの転換が成長の源泉だと主張するのに似ている。

ケリーCEOによると、現金・小切手による世界の個人消費額は2019年までの10年で年平均2%ずつ伸び続けた。今後も年1%ずつの拡大が続くと仮定すると、デジタル化率は数十年は90%に達することはない。つまり、長期にわたって安定した伸び代がある。

新たに生まれたスマートフォン決済は、Visaにとっては協業先でもある。直近では「PayPay銀行」とのパートナーシップを更新したことが報告されている。

決算報告で、ケリー氏は「日本で最も速く成長しているデジタルウォレットの一つで、4,200万人のユーザーがいる」とPayPayを紹介。そしてPayPay銀行には、400万人ものVisaデビット利用者がいる。

アフリカでは圧倒的な存在感を誇る「M-PESA」運営元であるSafaricomともパートナーシップを延長。M-PESAはケニアで5,000万人もの顧客を抱えているが、連携はケニア市場以外を対象としたものだ。

暗号資産領域との連携

暗号資産領域でも積極的な展開を見せる。Visaは「クリプト・エコシステムと(Visaの)グローバルネットワークをつなぐ橋」として機能したいという狙いを明らかにしており、暗号資産を法定通貨へと替えるソリューションを提供している。

すでに65を超える暗号資産プラットフォームや取引所がVisaと提携。2021年9月期には35億ドルもの関連する決済を取り扱った。2021年10〜12月には、それが25億ドルを超えた。これは前年通期のすでに70%にのぼる数字である。

Visaはクリプト事業者に競争を挑むのではなく、彼らにとって重要なパートナーになることで、互いにWin-Winな形での成長を志向している。このアプローチは他の領域でも共通する部分である。

今後の注目は、CBDC(中央銀行発行デジタル通貨)に関するアップデートだ。ケリーCEOはVisaが現在開発中のCBDC決済APIについてプレビューしたとコメント。同APIは、中央銀行がイーサリアムベースのCBDCに接続することを想定している。

そこでVisaは加盟店とCBDCをつなぐ重要な役割を果たすことになる。開発にあたっては、ブロックチェーン技術に特化したコンセンシス(ConsenSys)社と提携。両社は今春にも実証実験を計画している。

今は「BNPL 1.0」に過ぎない

同様のアプローチは、勃興する後払い(BNPL: Buy Now, Pay Later)決済においても展開する。

昨年10月には欧州発のBNPL決済大手「Klarna」とグローバルブランド契約を締結。この四半期には米国の「Affirm」が「Affirm Debit+ Card」発行に際してVisaをネットワークパートナーに選んだと発表した。

そもそも現在のBNPL決済は「BNPL 1.0」ともいうべき段階に過ぎないというのがアルフレッド・ケリーCEOの見立てだ。そこでは個々のフィンテック企業がそれぞれマーチャント(事業者)との契約を結ぶ。

ケリー氏の考える「BNPL 2.0」はこうだ。フィンテックパートナーは大手クレジットネットワークのブランドを活用することで、加盟店を一つずつ開拓するという無駄なプロセスを省略。Visaがすでにグローバルなネットワークを構築しているのだから、車輪の再発明をする必要などない。

米国でもBNPL決済は前年比二倍以上のペースで成長しているが、その土台にはVisaが培った決済ネットワークもある。既存のイシュアー(カード発行者)向けには、後払いサービスを導入できる「Visa Installments」も提供する。

キャッシュレス化の「10倍」機会を見込むもの

さらに大きな伸び代を見込むのが、同社が「new flows」と呼ぶ新たなお金の流れだ。法人対法人、法人対個人、ピアツーピア、政府対個人など、あらゆる領域に機会をみる。

購買や売掛金・買掛金、クロスボーダー取引といったB2B領域は120兆ドル。B2C領域ではギグエコノミーや保険、給与支払いに変化をみて30兆ドルの機会があるという。全体では合わせて185兆ドル。前述した現金・小切手18兆ドルの十倍を上回る成長余地があるというのだ。

ここで具体的打ち手として展開するのが「Visa Direct」。国際送金やスモールビジネス向けの支払い、従業員向けの給与支払い、消費者向けなど、リアルタイムにお金を動かすことに特化したソリューションだ。

もちろん、Visaは送ったお金を受け取るべき「口座」を抱えているわけではない。Visa Directは銀行やフィンテック企業などを直接的な顧客とし、それら顧客はエンドユーザーに対して利便性高い送金ソリューションを提供できるというわけだ。

この領域では2019年、銀行向けにクロスボーダー決済サービスを提供する「Earthport」を買収。両社一丸となり、P2P(20兆ドル)やB2C(30兆ドル)、B2b(5兆ドル)、G2C(10兆ドル)の合わせて65兆ドルもの「付加価値は低いが、頻度の高い決済(Lower value, higher velocity flows)」を取り込んでいく。

3つ目の注力テーマ「付加価値サービス」

以上の取り組みから分かるように、Visaにとって最大の資産はすでに確立したネットワークとブランドだ。二つを維持成長させていけば、よほどのことがない限り従来の高収益を享受することができる。

Visaのブランドとネットワークをさらに強め、収益機会にもなるのが付加価値サービス(value-added services)。ケリーCEOが3つ目のテーマとして掲げるのがこれだ。

そもそも決済というのは、早ければいいというものではない。間違えて送金した場合には取り消せる必要があるし、詐欺にあうリスクもある。クレジットカード会社は長年、これらの問題に取り組んできた。

2021年、Visaの顧客のうち40%が5つ以上の付加価値サービスを利用していた。10以上を利用する顧客は30%近くにのぼり、前年の20%から大きく拡大している。

例えばグループ内に「CyberSource」という企業がある。決済セキュリティや不正防止管理に強みをもつ決済受け入れソリューションで、リスクソリューションの「Decision Manager」は前年比30%を超えるペースで伸びている。

M&Aにも積極的な姿勢を見せる。Plaidの巨額買収は規制当局によって阻止されたが、2021年6月にはオープンバンキングプラットフォームの「Tink」を18億ユーロで買収することを発表。

Visaの付加価値サービスは、2021年9月期に50億ドルもの収益をあげた(PL上に記載されているサービス収益とは別)。2021年10〜12月にも、前年比20%以上のパーセンテージで伸びたという。