エヌビディア[NVDA]の株価は17%急落、AIテックやデータセンター株も大幅に売られる
昨日1月27日の米国株市場では、エヌビディア[NVDA]の株価が17%急落し、時価総額は約6000億ドル(約92兆円)が消えてしまいました。これはアメリカ企業として史上最大の下落です。エヌビディアの下げはアメリカのテックセクター全体に広がり、市場はAI関連投資削減の可能性について過敏に反応しました。
ブロードコム[AVGO]も17%下落し、時価総額は2000億ドル減少しました。また、エヌビディアのGPUに依存するデータセンター関連企業も大幅に売られました。ヒューレット・パッカード・エンタープライズ[HPE]、デル・テクノロジーズ[DELL]はそれぞれ5.8%、8.7%下落しています。トランプ大統領のAIイニシアチブの一部であるオラクル[ORCL]は13.8%下落しました。
このような中、1月27日の1日でS&P500は1.46%の下げ、ナスダック100は2.97%下落しています。急激にセンチメントが悪化した昨日の下げの局面での投資家の行動はというと、とりあえず売って、その後に考えようというスタンスだったようです。
米国株市場の下落のきっかけとなったのは、急に浮上してきた中国のAIソリューションDeepSeekの存在です。これまで注目されなかった中国のスタートアップ企業が世界最大の株式市場を大きく揺さぶったのです。先週(1月20日週)のマーケットでは、DeepSeekが株式市場に目にみえる大きな影響を与えることはありませんでした。先週1月24日(金)にはメタ・プラットフォームズ[META]がAI関連の予算をウォール街の予想である380億ドルを大幅に上回る650億ドルに引き上げるとの発表もありましたし、ほとんどの投資家はDeepSeekの存在を気にしていなかったはずです。
米国アップル[AAPL]の「App Store」でDeepSeekのダウンロードがChatGPTを抜いて首位に
しかし、その後、週末にかけてDeepSeekの画期的なAI製品に関するさらなる報道が増え、突然DeepSeekとChatGPTの間での技術競争が注目されるようになったのです。マーケットがDeepSeekの凄さに注目し始めたきっかけは、先週末アップルの米国版「App Store」において、OpenAIのChatGPTを抜いてDeepSeekが最も多くダウンロードされた無料アプリの座を獲得したことがわかってからのことです。
DeepSeekの「R1推論モデル」はOpenAIの最新モデル「o1」を多くのベンチマークで上回る性能を発揮
DeepSeekとは:米国のトップAIモデルを上回る効果を発表
DeepSeekは、中国に拠点を置くAIスタートアップ企業です。今回彼らは、より低コストかつ性能の低いチップを使用してアメリカのトップAIモデルを上回る成果を発表し、シリコンバレー全体に大きな動揺をもたらしたのです。DeepSeekは、2024年12月に無料のオープンソース大規模言語モデル(LLM)を発表しています。
このモデルは、エヌビディアの性能を抑えたH800チップを使用し、わずか2ヶ月と600万ドル以下の費用で開発されたと報じられています。DeepSeekのモデルは、第三者機関によるベンチマークテストでメタ・プラットフォームズのLlama 3.1やOpenAIのGPT-4oを上回る精度を示しました。これには、複雑な問題解決や数学、コーディングの分野が含まれます。さらに、2025年1月22日に公開されたDeepSeekの「R1推論モデル」は、OpenAIの最新モデル「o1」を多くのベンチマークで上回る性能を発揮しています。
DeepSeekの「R1推論モデル」は低コスト開発
市場を揺るがしている最も大きな理由は、そのトレーニングがいかに安価であったかということです。DeepSeek自身の研究論文によると、同社モデルのトレーニングコストは600万ドル未満だった。一方、OpenAIのGPT-4のトレーニングには推定7,800万ドルのコンピュートコストがかかったとされ、スタンフォードの2024年版人工知能インデックスレポートによると、GoogleのGemini Ultraは1億9,100万ドルかかったとされています。
これに対し、テスラのイーロン・マスク氏は、「DeepSeekが実際には1万台ではなく、5万台のGPUを使っている可能性がある」と指摘しています。また、600万ドルと言われている費用についても、実はその前にも資金を使っているのではないかという憶測もあります。
しかし、現時点では、まだ多くの答えられていない疑問があり、市場の結論は出ていません。
また、トランプ大統領がこのような事態を黙って見ておくとは思えませんし、アメリカのAI企業をサポートする今後の発言や政策も気になるところです。とはいうものの、この騒ぎが落ち着くまで当面は株価のボラティリティの高まりは継続するのだと思います。
レバレッジ型とインバース型のETFが、エヌビディアの現物株の下落に拍車をかけた
今回のエヌビディアの株価の下げについて言えることは、レバレッジ型、インバース型のETFの値動きがエヌビディアの現物株に与える影響の大きさです。
ロンドン市場ではエヌビディアの3xレバレッジ型のETFが取引されています。1月27日のロンドン市場では、このエヌビディアの3xレバレッジ型のETFが51.5%下落したところで、取引停止となっています。デリバティブを活用したレバレッジ型のETFの買いが増えると、それがエヌビディア現物株の株価形成に悪影響を与えることもあり、1月27日のエヌビディア株の下落に拍車をかけたと考えています。
DeepSeekは、エヌビディアや関連企業にプラスの影響を与える可能性
最終的な落ち着きどころについては、これから市場が判断していくのでしょう。しかし、私は、昨日のマーケットの反応はオーバーリアクション(過剰反応)であり、今回の発表はエヌビディアや関連企業にとってプラスの影響をもたらすのではないかと考えています。
DeepSeekもエヌビディアのチップでトレーニングされていますし、アメリカや中国、その他の国々が競争を激化させる中、AI関連の投資がさらに加速されるのではないかと予想されます。AI戦争は始まったばかりであり、エヌビディアのようなハードウェア企業が引き続き中心的な役割を果たすのではないかと考えています。