今回、インドのIT大手ウィプロのゼネラル・マネージャー、CFO兼IR部門責任者を務めるアビシェーク・クマール・ジャイン氏にインタビューを行ないました。ジャイン氏はHSBCやクリシル(インドの格付会社)でアナリストを務めたほか、タタ・スティールで財務・経理担当マネージャーを務めるなど、金融業界で約16年のキャリアを有しています。ジャイン氏にウィプロのビジネス戦略や、今後の成長の見通し、将来的なビジョンなどをお聞きしました。

デジタル変革の加速によって市場シェアが拡大

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:ジャインさん、本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。まず、ウィプロ(WIT)の事業内容やビジネスモデルなどを簡単に説明していただけますか。

ジャイン氏:はい。弊社は1945年に植物油の製造会社として事業を開始し、その後コンシューマー・ケア製品の分野に進出しました。1980年代には、コンピューターの製造・販売を通じてインドのIT産業に参入し、1990年代には、ハードウェア、R&D設計、ソフトウェア開発の専門知識を活用して世界中の顧客にソフトウェアサービスを提供してきました。2013年には、非IT事業を統合し、今や30年以上の実績を持つグローバルなITサービスプロバイダーとなりました。

現在、私たちが注力しているのは、グローバルな情報技術ビジネスです。コグニティブ・コンピューティング(※)、ハイパーオートメーション、ロボティクス、クラウド、アナリティクス、デジタルなど、あらゆる新技術の力を活用し、顧客がデジタルの世界に適応できるよう貢献しています。(※コグニティブ・コンピューティングとは自然言語を理解し、学習し予測するコンピュータ・システム、またはその技術のこと)

弊社は、包括的なサービスを提供していることでも知られており、持続可能性と良き企業市民としての強い決意を持っています。

6大陸で22万人以上の従業員を擁し、世界の約55~56カ国で事業を展開しており、インドの両証券取引所(NSEとBSE)とニューヨーク証券取引所に上場しています。

また、2020年の12月には創業から75年という節目を迎えました。弊社にとって、価値観、人材、そしてパーパス(存在意義)を原動力とした変革の75年間でした。

先述の通り、私たちはグローバルに事業を展開しており、多くの国々でオフィスを構え、顧客にあらゆるITサービスを提供しています。

岡元:現在、世界の多くの企業にとって非常に困難な時期です。御社はコロナ禍でどのような影響を受けましたか。

アビシェーク・クマール・ジャイン氏
ウィプロのゼネラル・マネージャー、CFO兼IR部門責任者

ジャイン氏:新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初、弊社のビジネスには多くの不安要素があったと思います。顧客からコスト削減の依頼や料金の値引き交渉などもありました。最初の3~4ヶ月の間、将来の見通しに多くの不確実性があったため、2020年第1四半期(4〜6月)の収益成長率は7.5%と減速しました。

次第に多くの顧客が、クラウドに移行するデジタル・トランスフォーメーション(DX)、どこでも働くことができる新しいアジャイルワーク等、自ら変革し、どこでも働くことができるよう柔軟性を持たせることの重要性を理解し、「変革の旅」を始めました。クラウド対応に二の足を踏んでいた顧客も、徐々に適応し、「変革の旅」を加速するようになりました。今では需要が戻ってきて、2021年第1四半期以降は力強い成長を遂げています。 

また、変革の最中に新しいCEOも加わりました。新CEO就任以降、私たちは10億ドルを超える巨大案件を2件成立させており、直近の四半期においても、様々な大型案件を獲得しています。

このようにコロナ禍の最初の数ヶ月を過ぎてから、需要の変化を目の当たりにしています。顧客は「変革の旅」を加速させており、弊社もそれに参加して市場シェアを獲得しています。 

企業の成長率に差をつけたポイントとは

岡元:では、グローバルでの競合他社はどこの企業でしょうか。御社の主な強みや、競合他社との差別化について教えてください。

ジャイン氏:具体的な名前を挙げることはできませんが、世界的なコンサルティング企業や大手IT企業と競合しています。これらの企業はインド国内だけでなく、世界的にも大きな存在です。

私たちは自社の持つ「強み」を大切にしています。弊社の強みは、独自の価値観、既存のパートナーシップへのコミットメントを持っていることです。そして、テクノロジーへの情熱とイノベーションが弊社の鍵です。

差別化した製品を提供するという点において、私たちは十分なポジションを確保し、投資を行ってきました。デジタル、クラウド、サイバー、デジタル・オペレーション・プラットフォーム(DOP)に早くから投資してきたことで、企業の成長率に差をつけることができました。

ビジネスやバーティカルソリューションを生み出し、顧客の変革を促進することに一層重点を置いて、デジタルサービスへの投資を続けています。

また、弊社はパーパス(存在意義)を持った組織として知られていることをとても誇りに思っており、弊社の経済的利益の66%を慈善活動に向けています。それが評価されているのだと思います。

他にも、イノベーションへの情熱という弊社の文化は、顧客にも認められています。具体的にはテクノロジーの観点から見たユニークな価値観、コミットメント、イノベーションへの情熱を提供しています。

岡元:地域別ビジネスの内訳、注力分野、市場規模を教えてください。

ジャイン氏:地域的には北米・南米が最大の市場であり、現在の収益の58%以上を占めています。次に欧州が約30%を占めています。残りはAPAC(アジア太平洋地域)と中東地域で、ここでは産業が大幅に増加しています。

引き続き北米・南米が弊社にとって最大かつ非常に重要な地域ですが、欧州、APAC、中東にも注力しており、急速な成長が見込まれています。

M&A戦略の2大原則「新分野における能力強化」「市場へのアクセス」

岡元:御社のM&A戦略、企業選択の主な基準についてお聞かせください。

ジャイン氏:2020年に策定した戦略の中で、M&Aは非常に重要な柱でした。今後も積極的に取り組んでいきます。M&Aに注力している目的は、技術的な専門知識を外部から獲得して能力を高めるためです。

私たちは主に2つの原則に基づいて行動しています。1つは、新分野での能力を強化すること。もう1つは、特定の市場、例えば欧州やその他の国など、弊社がまだ存在感を十分に示していない地域へのアクセスと進出を加速させることです。
 
現地でのプレゼンスが重要ですので、M&Aを通じてそこへの注力を加速させるのです。このように、能力強化と市場へのアクセスが、弊社のM&A戦略の2大原則です。もちろん、M&Aは弊社の加速的な外部成長エンジンであると考えていますが、一方で内部成長エンジンにも引き続き取り組んでいきます。 

新しいCEOが就任してから直近2四半期に過去最大規模のM&Aを行いました。カプコ社の買収です。これまでに20件の案件を獲得しており、現在40件以上の案件が進行中です。このように最大規模の企業取得を実現できたことを非常に嬉しく思っています。この6~8ヵ月の間に6件を獲得しており、M&Aは引き続き弊社の戦略の重要な部分を占めるでしょう。

岡元:グローバルなエコシステムとして、パートナーシップやアライアンスなどはありますか。

ジャイン氏:もちろんです。私たちは、戦略的パートナーシップはビジネス戦略の中核の1つだと考えており、多くの企業とパートナーシップの関係を築いています。その中で、共に勝利することが重要だと思っています。そのため、パートナー企業と協力して、顧客に比類のない価値を提供するアプローチをとってきました。

私たちはパートナー企業と文化的価値観を共有しています。その共通の価値観は、コラボレーション、既存のコミットメント、未来のテクノロジーに関する思考的リーダーシップにより推進されています。

私たちは、「ハイパーグロース・アライアンス」と呼ぶ戦略的提携を結び、これまでに6つの提携を展開してきました。これらの提携の目的は、大きな戦略的ビジネスパートナーシップに発展させ、市場で共に勝利することです。

>> >>特別インタビュー【2】印IT大手ウィプロ(WIT)のESGへの取組み、人材戦略、2022年のビジネス展望とは?

本インタビューは2021年12月20日に実施しました。