>>特別インタビュー【1】米国割安株を選ぶポイント、中小型株投資のメリットとは?

クリシュナ氏の注目3銘柄

岡元:クリシュナさんが今、注目している3銘柄を教えてください。

クリシュナ氏:最近では株価と企業としての魅力のレベルが必ずしも一致しないということは広く知られています。ですから投資家が株式を購入する前に自分でデューデリジェンスをするのは当然のことだと思います。

コロナ禍でも収益性が向上したカプリ・ホールディングス(CPRI)

米国には現時点で非常に魅力的な価値を持つ銘柄がいくつかあると考えています。例えば、カプリ・ホールディングス(CPRI)のような企業です。同社は中堅の高級ブランド「マイケル・コース」や靴のブランド「ジミーチュウ」、イタリアの高級ブランド「ヴェルサーチ」など、皆さんがよくご存じのブランドを所有しています。

同社は2020年のコロナ禍で、既存店の売上が大幅に減少しました。米国では約80%の店舗が閉鎖した時期もありました。オンライン上では営業を継続していましたが、明らかに店舗の売上は影響を受けていました。そのため、同社株は大きく売られてしまいました。

しかし、その時の私たちの見解は、「長期的な経済成長などは忘れよう」というものでした。同社にはパフォーマンスを向上する余地がまだ多くありました。というのも、数年前に同社がジミーチュウとヴェルサーチを買収して以降、この2つの事業はマイケル・コースの収益性を大きく下回っていたからです。私たちは、彼らをマイケル・コースのソーシングだけでなく、在庫などの日々の管理にも応用させることで、この2つの事業の全体的な収益性を大幅に改善できると考えました。そして、まさにその通りになったのです。

最近では売上の増加による恩恵も受けていますが、私たちの核となる仮説は、トップラインの成長を必要とせずに収益性を向上させるというものでした。これはまさに彼らが達成したことです。

ヴェルサーチは直近の四半期の数字を見ると、収益性が劇的に向上しています。ジミーチュウは持ち直しており、コアビジネス自体は現在かなり好調です。その上、自社株買いという形で投資家に多くの現金を還元することができます。したがって長期的に見ても、非常に魅力的な価値を持つビジネスだと考えています。

需要回復が期待されるリア(LEA)

また、米国市場では、リア(LEA)も気に入っている銘柄です。自動車の座席、電気自動車やハイブリッド車、内燃車に使用される電装用ワイヤーハーネスを製造している企業です。

電気自動車が成功するかどうかにかかわらず、自動車には常に「座席」が必要ですから、同社は非常に有利な立場にあると言えます。電気自動車であれ、内燃車であれ、あるいはハイブリッド車であれ、業界がどのようになろうとも、「座席」というものは守られるのです。同様に、「電線」ビジネスも非常に重要です。

当初はコロナ禍の影響により状況が悪化していましたが、それが非常に良いエントリーポイントになったと思います。さらに重要なのは、最近半導体においてもサプライチェーン問題が発生し、世界中の自動車生産がスローダウンしていることです。それにより現在の株価は過小評価されていると考えています。

今後12ヶ月から24ヶ月の間に再びサプライチェーンが回復し、半導体の供給量が増えることで需要が回復していくでしょう。そうなれば、リア社のバリュエーションも非常に良くなり、株価も良くなると思います。

高齢化の進行によって恩恵を受ける見通しのマケッソン(MCK)

上記2つの事業とは全く異なる銘柄にも注目しています。それは、米国の医療用医薬品流通会社のマケッソン(MCK)です。同社は海外でも事業を展開しており、欧州では一部の事業を売却しています。

同社は、例えば新型コロナワクチンの米国における販売で大きな恩恵を受けています。ご存じのように、ファイザー社とモデルナ社のワクチン、特にファイザー社のワクチンには温度管理が必要です。また同社はワクチンの配給に関し、豊富なサプライチェーンを持っています。これは非常に新しいビジネスであると同時に、ここ1年ほどで彼らにとって重要なビジネスになりました。

ご想像の通り、米国では人口の高齢化が進んでいます。高齢化により医薬品の使用量が増加し、さらに治療分野が増えて、新薬が作られるようになります。そのような状況下で同社は長期的にその恩恵を受ける有利な立場にあります。さらに同社はジェネリック医薬品やバイオ後続品の販売から大きな利益を得ています。例えば、薬価への圧力が高まっている中で同社は製品を調達し、ブランド医薬品市場よりも速く進むと思われるものを販売するため、非常に有利な立場にあります。

このように、非常にエキサイティングなビジネスを展開しています。先日も業績発表がありましたが、現状の課題をクリアして非常に良い収益を上げており、長期的に見ても非常に魅力的な価値があると考えています。

岡元:ありがとうございます。今、クリシュナさんが注目しているのは「株式市場の中での株」であり、株そのものではないのですね。

サプライチェーン問題はいつまで続くのか

岡元:米国株式市場における重要な課題、リスクは何だとお考えですか。

クリシュナ氏:実際に今、何が起こっているのかと考えると、やはりサプライチェーンの問題が重要でしょう。

米国市場では多くの主要分野で品薄状態が続いており、これらの企業の中には、顧客に提供できる製品が実際に不足しているところもあると考えています。実際クリスマス商戦に入ると、早めに買い物をしないと親しい人や家族、友人へのプレゼントが買えなくなることもあるでしょう。同様に車のような大型商品でも、ディーラーに莫大なプレミアムを払わないと車が買えないといった事態も起こりかねません。

中国で何が起こっているのかを含め多くの要因に左右されるため事態は複雑ですが、このサプライチェーン問題の解決が必要でしょう。

岡元:サプライチェーン問題はいつまで続くのでしょうか。

クリシュナ氏:多くの人が予想しているよりも少し長くかかるかもしれません。12ヶ月というのが可能性として高いと考えています。日本や中国、韓国であれ、製品を製造したら、最終的には製品を出荷し、製品メーカーの末端まで届ける必要があります。そしてそれを米国内で消費者に販売します。つまりは長期的なサイクルなのです。

これらの製品の多くは長期的な傾向があります。そのため、新しいサプライヤーを見つけたとしても、必要な原材料を揃えるのに時間がかかることもあります。ですからサプライチェーン問題を解決するには12ヶ月ほど必要だと考えています。

もちろん徐々に改善されていくでしょうから、来年の半ばには今よりもはるかに良い状況になっていると思います。

物流の停滞解消に向けた新たな動き

岡元:では、サプライチェーン問題については今が最悪の状況なのでしょうか。

クリシュナ氏:可能性はありますね。企業はすぐに適応する傾向があると思います。特に企業は問題を回避するための方法を考えるのが得意ですよね。ですから既に「よし、どの製品を空輸するか考えよう」と言っている企業もあるのではないかと私たちは考えています。

世界には十分な数の航空機があります。今、世界中を飛び回っている人が少ないことを考えると、製品を出荷するため本当に必要であれば、ボーイング747を文字通りすぐに改造して、貨物機にすることもできるでしょう。確かに少し高くなりますが、今はとにかく多くのお金を払ってでもほしいという消費者がいます。

一部の製品では品不足が続いているため、より多くの価格を支払わざるをえません。同様に、運送会社でも価格を大幅に引き上げています。そのため人々は代替手段を見つけ、それが実現し始めています。

そこで私たちは同様の製品を調達するため、他にどんなプレイヤーがいるかを調べています。つまり製造上の要件を中国から米国に移し、米国企業のために国内で製造するということです。コストは少し高くつくことになるでしょう。しかし、それは米国で雇用を創出することになります。さらにより高い価格で製品を求めている消費者のために、迅速に製品を調達することもできます。このように、サプライチェーンの面でも多くの変化が起こっています。

現状いくつかのボトルネックがあります。その1つは、港での問題です。

従来の8時間のシフトを365日24時間の運用にしたとしても、それに対応できるだけの輸送能力を確保しなければなりません。そこがボトルネックにならないようにするためです。同様に中国から製品を積んで戻ってくる船と、それを運ぶのに十分なコンテナも必要です。このように複数の問題があります。

これらの問題のいくつかは早晩解決されるでしょうが、需要が劇的に増加していることはご存じの通りです。

昨今、人々はレストランに出かけて食事をする機会も減り、大きな買い物も控えたりして、消費者は個人レベルで使えるお金をたくさん持っています。消費者が多くを牽引し、最終的には産業需要に影響を与えていると考えています。住宅需要はその一例です。

私たちの見解は、状況は変わり始めているが完全に解決するまでには時間がかかるだろう、ということです。

>> >>特別インタビュー【3】新興国市場のバリュー株に注目する理由、米国株式市場の長期見通しとは?

本インタビューは2021年11月25日に実施しました。