今回、ARGAインベストメント・マネジメントの創業者兼最高投資責任者のラマ・クリシュナ氏にインタビューを行ないました。クリシュナ氏は同社の創業以前は、ツェナ・インベストメント・マネジメント(PZN)で、米国の大型バリュー株戦略の統括を皮切りに、国際バリュー株戦略、新興市場バリュー株戦略の発展に主導的な役割を果たし、社長を務めました。クリシュナ氏に銘柄選択の考え方や、注目の3銘柄、米国株式市場に対する長期的な見方、投資家として成功するためのアドバイスなどをお聞きしました。
割安株選びのポイントとは
岡元:本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。
クリシュナ氏:こちらこそこのような機会をいただき、ありがとうございます。
岡元:まず、ARGAインベストメント・マネジメントの概要を教えてください。
クリシュナ氏:はい。弊社は、過小評価され「割安」と考えられるグローバルビジネスへの投資に注力しています。まず当該ビジネスをよく理解するためのリサーチを行い、感情に左右されないよう非常に規律ある投資プロセスを実行しています。世界中の株式を対象に、バリュエーションに基づいた投資を行っています。
岡元:ナスダックが実施した「ブランド認知度ランキング」で大手運用会社が名を連ねるなか、中堅運用会社としてただ1社選ばれたそうですね。おめでとうございます。成功の秘訣は何ですか。
クリシュナ氏:米国での中堅運用会社の中で弊社が突出していた主な理由は、非常に規律ある投資アプローチを行っているという事実に尽きると思います。
「割安」なビジネスを見つけるという点では、逆に人間の感情を利用しています。一般的に、割安な投資を生み出すのは投資家の過剰反応です。そして、その割安感が持続する理由や解消される理由を追求していきます。そして、私たちが指摘する諸問題が一時的なものでいずれ解消されると確信でき、長期的な視点から見てその事業が割安であると判断した場合には、顧客のためにそれらのビジネスを購入します。
このアプローチは当たり前のことをしているように思われるかもしれません。しかし、実行するのが難しいという意味でかなり特徴的と言えるでしょう。
私たちは創業当初からリサーチに基づいた投資プロセスを貫くことを信条としてきました。その点が顧客からの評価につながっているのだと思います。
岡元:御社は中堅とされていますが、運用総額はどのくらいですか。また、投資を始めてからの投資ホライズン(想定する投資期間)はどのくらいですか。
クリシュナ氏:ナスダックが実施した資産運用会社のトップブランドに関する調査では、中規模の運用会社を25億ドルから400億米ドル以下としています。現時点においては世界のバリュー投資については長期的に非常にポジティブだと見ています。
私たちが投資を行う際の想定期間の多くは、3年から5年です。この間には多くのチャンスがあると考えています。
買い時・売り時はどう判断する?
岡元:優れたビジネスモデルの企業を見つけた場合、3年、4年と投資を継続して、その時点でもまだその企業に魅力を感じる場合は保有し続けるのですか。
クリシュナ氏:私たちは非常に規律ある投資プロセスを採用しています。全世界の企業を対象としてランク付けし、上位20%にランクインした銘柄のみを購入しています。ですから、世界で2,500社ほどの企業を見ていることになります。私たちが定めた基準に基づいて上位に入る銘柄についてのみリサーチを行います。
同様に独自のバリュエーション・アプローチに基づいて、そのランキングの下位半分の銘柄を売却します。つまり1,250位以下の銘柄は、自動的にポートフォリオから売却されます。
議論もせず、ただ売るだけ。これが「買い」と「売り」の両方に適用されている規律です。このように、常に世界で最も割安であるビジネスへの投資に集中したいと考えています。
岡元:割安な状況にある優良企業を見つけるのが難しいと感じることはありますか。
クリシュナ氏:今は、世界中にこの分野で多くのチャンスがあるため、非常に面白い時代だと思っています。リーマンショック以降の約12年間を振り返ってみると、世界は安定成長している企業や加速度的に成長している企業をより重視するようになり、収益の流れや成長率に不確実性が伴うビジネスに目を向けてきませんでした。
一方でこのような偏りによって、それらの軽視されてきた企業のバリュエーションは、安定した成長を遂げている企業に比べ、非常に魅力的なものとなりました。たとえ短期的なエグゼキューションに問題があることで評価を下げたとしても。長期的に見ればこれらのビジネスは非常に魅力的な価値を持っていると考えています。その結果バリュエーションを基準とした観点で見ても、私たちは世界のあらゆる地域で多くの投資機会を得てきました。
企業の四半期決算、業績ガイダンスにおける考え方
岡元:割安な銘柄を見つけて保有し始めたら、四半期ごとの決算にはどのくらい注目しますか。
クリシュナ氏:私たちは長期的な目線で投資を行なっています。しかし長期的なものは短期的なものの連続とも言えます。
どの企業についてもモデルを構築する際に、5年以上の詳細な予測を行うだけでなく、ポートフォリオで保有しているすべての企業について、四半期毎の収益モデルを構築しています。そうすることによって、企業の四半期決算の数字を見れば、長期的に見た私たちの仮説が期待通りに機能しているかどうかを3ヶ月毎に確認できるからです。
そのため弊社のアナリスト陣には、四半期決算が出る前に業績プレビューを、また決算が出た直後には業績レビューを行うことを求めています。そうすると、長期的な視点での分析が間違っていたかどうかがすぐにわかります。これは私たちが各企業に対して抱いている長期的な仮説が、四半期ごとに検証されているかどうかを把握するための非常に良い参考基準となります。
岡元:では銘柄を保有した後、四半期決算で期待外れな業績が出た場合は、その株式を売却するのですか。
クリシュナ氏:その四半期の収益の数字が私たちの長期的な見方、つまり事業の正常な収益力にどのような影響を与えるかという観点で判断します。どんなビジネスにも浮き沈みがあります。現実には、長期的に見た場合にその事業がどのようであるかということを考えるのが良いと思います。
その目的は、特定の四半期に発表される新しいニュースにより長期的な予測が変化しているかどうかを確認することです。 ですから何かネガティブなサプライズがあって、それがその事業の長期的な通常の収益力についての考え方に影響を与えれば、短期的な数字だけでなく長期的な収益の数字も下方修正することになります。そしてその減益を踏まえた上で、評価上の株価が割高になってしまうようであれば、売却しなければならないかもしれません。
それほど頻繁ではありませんが、たまにそういうこともあります。
岡元:そういう意味でも、経営陣の業績ガイダンスは非常に重要ですね。
クリシュナ氏:経営陣の業績ガイダンスそのものよりも、実際に経営陣が行っていることの方が重要です。というのも、経営陣は一定程度のことを教えてくれるかもしれませんが、誰も3ヶ月先に何が起こるかを見通すことはできないからです。
そのため、私たちはガイダンスではなく前四半期に何が起こったかに注目しています。独自に四半期の状況がどうなりそうかを詳細に予想したものと比べて、実際の数字はどうだったかを確認しています。前四半期に発表された実際の数字と予想との間に大きな差がある場合は、ポジティブサプライズまたはネガティブサプライズの原因となるかもしれません。
実際のところ、私たちは経営陣の業績ガイダンスをあまり気にしていません。むしろ「彼らは他の誰も知らない何かを知っているのか」ということを重要視しています。
中小型株投資のメリットとは
岡元:大型株に比べ、中小型株銘柄に投資するメリットは何ですか。
クリシュナ氏:この点については多くの学術的な研究が行われており、小型株銘柄は大型株に比べて長期的にパフォーマンスが優れているという調査結果もあります。これは単に、証券会社が中小型株銘柄を十分に調査していないことが原因かもしれません。
例えばトヨタ自動車のような大企業では、おそらく100人以上のアナリストたちが世界中で非常に詳細な調査を行っています。一方で日本でも米国でも、規模の小さい企業の場合、その企業を見ている証券会社のアナリストが1人もいないことがあります。
そのため自分で調査を行い、実際に企業を訪問して業界の詳細な調査を行うことができれば、調査の観点から中小型株の企業に大きな価値を与えることができます。
特に弊社では、グローバルな業界モデルを構築するアプローチをとっており、すべての企業について過去のデータを収集し、企業や業界に関する予測モデルを詳細に構築しています。これは中小型株の企業を見極めるのに非常に役立ちます。同時に、それらの企業に対して同レベルの知識と深いリサーチを提供できます。
そして重要なのは、中小型株の企業も価値向上のためのエンゲージメント(対話)について前向きに考えていることです。これまで多くの投資家は、環境・社会面だけでなく、ガバナンス面でもこれらの企業に関わっていませんでした。しかし実際に対話をしてみると、彼らはE(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)のあらゆる側面から付加価値を向上させる方法を見つけることに非常に前向きです。
ですから私たちは、中小型株の企業には世界中で大きく評価が高まるチャンスがあると考えています。
岡元:非常に興味深いですね。
>> >>特別インタビュー【2】米国株の注目3銘柄、株式市場のリスク、物流停滞の懸念は今後どうなる?
本インタビューは2021年11月25日に実施しました。