11月13日、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)は予定会期を1日延長し閉幕した。10月31日から約2週間、気候変動問題に関わる人々にとっては目の離せない日々が続いた。最終日には「グラスゴー気候協定」が採択され、併せてパリ協定に関連する各種交渉議題についても一通りの結論を得ることができ、一定の成果が出たと見る向きも多い。

グラスゴー気候協定に盛り込まれた合意事項

COP26で論点とされていた事項のうち、グラスゴー気候協定には、(1)長期・短期目標、(2) 気候資金、(3)気候変動適応、(4) 脱石炭、(5) 自然・生態系を活用した炭素吸収・固定などに関する合意事項が盛り込まれた。以下、それぞれの内容を概観する。

【図表1】COP26論点について「グラスゴー気候協定」での言及内容
出所:丸紅経済研究所作成

(1)長期・短期目標

(1)の目標については、産業革命前と比べた気温上昇を1.5℃に抑える努力を進めることが記載され、1.5℃をより強く意識する内容となった。また、全締約国に対して、「国が決定する貢献(NDC)」における2030年目標をパリ協定の目標に合致するよう2022年末までに再検討・強化することを要請している。前者は長期目標の強化、後者は短期目標の強化を促すものとも捉えられる。

(2)気候資金

(2)の気候資金に関連して、先進国に対して2025年までに途上国の適応支援のための資金を2019年比で最低2倍にすることを促す内容が盛り込まれた。この他にも、先進国と金融セクターに対し、適応資金や気候行動に資する資金を拠出し投資を加速することを促す文言が頻出しており、気候資金の重要性が改めて強調された。

(3)気候変動適応

(3)気候変動適応は、日本では大きく取り上げられることが少ないが、COP26の議長国である英国が重視していた分野の1つである。同協定には、気候変動適応報告書を未提出の国は次回COPまでに提出するよう全締約国に要請することが記載された(日本は提出済)。提出される報告書の内容は、(2)の適応資金の活用用途とも関係してくると考えられる。

(4)脱石炭

(4)の脱石炭についても、COP26の議長国である英国が今回重視していたテーマの1つである。同協定では、クリーンエネルギーの導入加速のみならず、排出対策の採られていない石炭火力の段階的削減と非効率な化石燃料補助金の段階的廃止に向けた努力の加速をすべての締約国に対して促している。

石炭火力や化石燃料補助金への具体的な言及があったという意味で画期的だ。ただし一方で、「排出対策の採られていない」との文言がついたことは、現時点で石炭火力に一定程度頼らざるを得ない国々にとっては、将来の電源計画を検討するにあたっての選択肢が拡がったと見ることもできるだろう。

(5)自然・生態系を活用した炭素吸収・固定

(5)について 森林をはじめとする生態系による温室効果ガスの吸収・固定機能は、パリ協定の目標達成のためには不可欠であり、近年改めて注目が高まっている。このため、自然や生態系の保護と回復の重要性を強調する文言が盛り込まれた。

気候変動適応報告の提出と2030年目標の再検討以外は、いずれも「要請」ではなくあくまでも「促す」ものである。協定の内容を受けて各国がどのように反応、対応するかは現時点では未知数である。

パリ協定ルールブックの合意と今後の動き

同じく重要議題であり、長く決着を見なかったパリ協定ルールブックについてはすべて合意に漕ぎつけることができた。パリ協定6条で規定される市場メカニズムについては、排出削減量の二重計上防止が実現する一方、クリーン開発メカニズム(CDM)のクレジットの2030年までの目標達成への活用が可能となった。

【図表2】パリ協定ルールブックに関する交渉結果概要
出所:丸紅経済研究所作成

この他、温室効果ガス排出実績の報告やNDC達成に向けた取組みなど、各国が国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出するものの書式の統一(パリ協定13条)と、NDCの提出タイミング、そして目標設定年次の統一(同4条)も実現した。これにより、現状と目標に向けた進捗状況、パリ協定の目標との整合性などを世界全体でより把握しやすくなる。

ただし、気候資金(同9条)については、ルールブックの内容としては定まったものの、具体的な議論はこれからである。先進国から途上国への資金拠出がどのような枠組みで進められるのか、2022年度以降の動きが注目される。

COP26、真価が問われるのはこれから

ここまでで、グラスゴー気候協定とルールブックに関する交渉議題の結果について概観してきたが、これ以外にもCOP26の期間中に様々な共同声明や国際イニシアティブ発足が発表された。主要なものだけを挙げても、脱石炭に向けた共同声明や森林破壊停止の共同声明、メタン排出削減に向けた国際イニシアティブ発足、米中の共同宣言など、様々である。

2℃目標から1.5℃目標への格上げについての合意がとれ、スタートの号砲が鳴ったと見ることもできるだろう。しかし、その号砲を聞いて本当に走り出す国や企業がどれだけいるのか、様々な合意事項が実効性を伴うものとなるのか、COP26の真価が問われるのはまさにこれからだろう。

 

コラム執筆:宮森 映理子/丸紅株式会社 丸紅経済研究所