日本ではデフレが長く続いています。
デフレとは逆の意味のインフレですが、「ハイパー・インフレ」という言葉をご存じでしょうか?インフレが強烈な勢いで進む状況を言います。物価が年間で何十倍にもなる状態です。1980年代後半のブラジルや、1990年代前半のロシア危機時におけるロシアで実際に起こりました。

最近、絵画の価格が上昇してきているそうです。買い手にはロシア人の富豪が増えているとのことで、「日本もいずれハイパー・インフレになるかもしれない」と言っていたお客様がいるけれどどう思うか、と友人に聞かれました!結論から言えば、日本でハイパー・インフレは個人的には考えられないと思います。
その理由は後述しますが、あらためて、「インフレ」について考えてみましょう。

インフレ(インフレーション)とは、物価が上昇していくこと。つまり貨幣(通貨)価値が下がっていくことです。
インフレの要因としては主に以下の二つがあります。

1.ディマンド・プル型・・・ 景気上昇による需要増加が牽引。

2.コスト・プッシュ型・・・原材料の輸入コストなどの上昇による。

例えば、安い人件費を武器に安価で輸出をしている中国で、通貨切り上げが行われれば、日本にとっては製品の単価が上がる、つまりはコスト・プッシュ型のインフレ(輸入インフレとも呼びます)につながる可能性があります。ところが、デフレ経済の価格競争の中では 輸入価格の高騰分を販売価格に転嫁できず、企業の利益が薄まってしまうことにつながりかねません。

こうしたインフレ(やデフレ)の進行を食い止める手立てとして、金融政策があります。
インフレ懸念があるときは、消費よりも貯蓄をした方が魅力と感じられるように、もしくは借金はコストが高いと感じられるように「利上げ」をすることで、市場の熱を冷まします。

市場では利上げの実施前から、景気上昇期待をすると債券より株式市場に資金流入が増え、長期金利が上昇してきます。これは「良い金利上昇」です。反対に財務不安など先行き不安要素が高まると、債券の安全性が疑われ売られることで、金利上昇します。これは「悪い金利上昇」です。
ギリシャ危機に端を発し、欧州市場ではギリシャやポルトガルの国債が売られ、逆に安全性が高いとみられるドイツ国債に資金が流入しています。PIIGS諸国の国債の利回りは大きく上昇しています。

金利上昇は企業の資金調達難につながりますし、通貨安となれば輸入物価が高騰、インフレにつながる可能性もあります。

日本のハイパー・インフレを発言した方は、PIIGS諸国以上の債務残高を抱えた日本で、同様の状況が急激に起こることを考えられたのでしょう。現状では逆に日本国債へは、欧州などのリスク回避から資金が流入している状況ですし、円高も進行しています。

デフレもインフレも私たちの生活には悪影響をもたらします。デフレ脱却は必須ですが、急激にならないような舵とりをしてもらいたいものです。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員