以前から議論がなされていたことですが、米ドルの地位についてまたコメントされる予定であることがわかりました。
世界銀行のゼーリック総裁が本日ワシントンで行う講演内容について、その抜粋が昨日公表され、「米国が準備通貨としてのドルの支配的地位を当然視するのは誤りとなるかもしれない」と、ドル基軸通貨体制への疑念を示す予定とのことなのです。(時事通信)
ドルの基軸通貨についての疑念は最近では中国からの発言なども注目されましたが、その節は中国自身の元の国際的な地位についての野心的な背景があるとも言われていました。
今回の発言が世界銀行総裁からなされるということは、一つの国からの発声とはその重みが異なると言えるでしょう。
おりしも先週末からドル円の為替では円高が加速しています。
民主党政権の円高容認、FRBの実質ゼロ金利の継続など様々な要因がニュースに取り上げられています。短期的な流れの場合はそうしたニュースへの瞬時の反応が確かにあります。
こうした日々の流れの中においては、冒頭のようなコメントも瞬間的な反応の中に埋もれてしまう可能性はありますが、新興国が台頭し、逆に先進諸国の経済の立ち直りが鈍く、国際的な経済力の逆転(中国やインドが米国や日本を将来的に抜いていくことは予測されています)が、予想よりも早くなるかもしれない予感を抱かせる現在、瞬間的なニュースとしてではなく、継続的な投資を行う上での、重要なファクターの一つとして、十分に注意を払っていきたいところですね。
それでは現在の円高が順当なものであるのか、というと必ずしもそうではないでしょう。
為替レートは相対的なもの、かつ2国間の通貨の関係をシーソーのように表したものです。米国に対して、日本が相対的に見て、それだけ経済的に「強い」立場なのか、といえばどうでしょうか?
為替変動の大きな要因の一つである金利については両国ともゼロ金利に近く、長期金利については米国のほうに優位性があるといえます。リーマン・ショック以降の株価の上昇率については、日本は先進国の中で比較しても出遅れていることは周知のとおりです。
とすれば、現在の急激な円高は明確な円買いの理由があるわけではなく、短期的なニュースやストップロスなどが重なったための一時的な流れであると解釈するのが自然であるといえるでしょう。
世界銀行総裁は「今後はドル以外の選択肢が増える」と発言する予定のようです。一時期、各国の準備預金が米ドルからユーロにシフトすると注目されユーロが急劇に強くなったことは記憶に新しいことと思います。
流通量、取引の自由度など、為替市場においてメジャー通貨といわれるのは、ハードルが高いものですが、「米ドル以外=ユーロもしくは円」と限定せず、幅広く世界経済、通貨の実力を見ていきたいものです。
廣澤 知子
マネックス証券 シニア・フィナンシャル・アドバイザー